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フロカリ / 海に溺れる

 深く沈んでいたフロイドの意識が、ふわりと浮かび上がった。
 それに合わせて閉じていた瞳を開く。ぼんやりとした視界は段々とはっきりとしていき、ここが普段から使用している自分の部屋とは違うと気がついた。
 肌をなぞる乾いた風はオクタヴィネルのものとは全く違う。まだ夜が明けきっていない薄暗い空もよく見える。
 ここがどこであるか、と思考する前に、腕の中に暖かさが身動ぐのを感じた。それで昨夜あったあれこれを思い出した。
 投げ出された片方の腕がくしゃりと二人分の体の下敷きにされたシーツを乱す。それが海の波のように見えてフロイドはにんまりと笑う。
 このシーツが海だとしたら、昨夜の自分と腕の中の人間は派手に泳ぎ散らしたものだ。おかげでフロイドの視界に入るシーツはよく波打っている。
 フロイドのベッドとは違い、この部屋の主のベッドは広い。
 一寮生であるフロイドは兄弟であるジェイドとの二人部屋だが、フロイドの腕の中で眠る人物こと、カリムは二年にして寮長であり、熱砂の国の大富豪の長子だ。その地位や身分も含め、一人部屋を与えられている。
 広くて開放的な部屋で、同じように広いベッドの上で泳ぐのはひどく楽しいものだった。きっとカリムもそうであっただろうとフロイドは視線を腕の中に向け、真珠色の髪を指先で弄る。
 それがくすぐったいのか、むずがるように「ん〜……」とうめき声を上げて再び身動ぐ。居心地が良いところを探しているのか、暫くごそごそと動いた後に、瞼が震えた。
 数秒ほど待つと、フロイドの大好きな色がキャラメル色の瞼の下から現れた。
「ラッコちゃん、おはよぉ。まだ朝じゃないから寝てていいよー」
「……ふろいど……?」
 何が起こっているのか分かっていないように寝ぼけた表情を見せるカリムに笑顔を見せ、額にそっと唇を落とす。
 そこから唇を離すときにはわざとリップ音を立てた。その音で意識がはっきりしたのか、カリムは目を見開き、はくはくと口を開閉させる。
 その仕草はまるで餌を欲する魚のようだった。だから、そっちにもしてほしいのかと思ったフロイドは口も塞いでやった。
 すると褐色の肌でも分かるほど赤くなるカリムに、唇を合わせたまま楽しくなって笑ってしまう。
「フロ、ィド!」
 必死に名を呼ぶカリムの声はかわいそうになほどに掠れている。それがまた可愛くてフロイドは笑った。
 かすかすの声は、かの愛しい人のために声を対価にした人魚姫のようだ。この場合、声を対価にさせたのはフロイドになるが。
 幸いにして今日は学校は休みだ。どうせならその声を全部奪ってしまおう。
 良いことを思いついたとばかりにフロイドは体を起こして、カリムの上に乗っかるようにすると、何かを察したようにカリムは慌てだした。
 なにか言いたそうにしているが、それは後で聞いてあげることにして。
 今はまた、この白い海で二人で遊ぶことにしよう。畳む
    

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