« No.34 ">

    
    
レオカリ / 初恋ラプソディ



 レオナはナイトレイブンカレッジで開催されるマジカルシフトの大会に国賓として招かれ、観客席からその試合を見ていた。
 どの試合もファールぎりぎりな展開を繰り広げていたが、その分、魔法の展開や司令塔たちの多彩な戦略が見れて、飽きないどころか楽しくて仕方がない。
 国賓として招かれたと言われた時は面倒だと思ったけれど、試合を観賞している間は楽しくて仕方がなかった。
 準決勝の試合に入る前、休憩時間として長くはないが自由な時間が与えられた。
 そのタイミングで兄のファレナが、普段は見せないような表情で試合を見ていたレオナに気づいてか急に尋ねてきた。
「そんなにマジカルシフトに興味を持ったのか?」
 微笑ましいと言わんばかりの兄の問いに、レオナは一瞬だけ顎を引いて逡巡した後に頷いた。別に否定することでもない。レオナには魔法士の素質が十分にあったし、学生たちが使用する魔法がどんなものか見ているだけで楽しかったのは事実だ。
 しかしその答えに満足したように笑う兄に、居心地の悪さを覚えてレオナは立ち上がった。
「少し散歩してくる」
 そう言って夕焼けの草原の王族に用意されたスペースから抜け出すと、背後から飛んできた「護衛を連れて行け」と言う声を無視して走り出す。
 後ろから数人が追いかけてきそうな気配がしたが、不愉快だと睨みつけるだけで護衛たちは足を止めてしまった。
 レオナはまだ両手で数えられる年齢になったばかりだが、魔法の扱いに長けていて、何よりも強力なユニーク魔法を持っている。レオナが生まれつき持ったユニーク魔法――王者の咆哮は、どんなものでも砂に変えてしまう魔法だ。旱魃が続くサバンナでは忌み嫌われる力でもある。
 護衛や使用人たちは、その力を恐れている。気難しい第二王子の心持ちによって砂に変えられてしまわないかと怯えているのを、レオナは知っている。
 ……せっかく楽しんでいたのに、水を差された気がした。石造りの廊下を少し歩くと、試合の熱に当てられた肌に涼しい風が撫でる。気づけば周囲にはあまり人がおらず、関係者しか入ってはいないところにいたようだ。
 流石にここにいるのは良くないと判断したレオナは、踵を返そうとした時だった。視界の端にやたらきらきらした何かが入り込んだ。
 きらきらした何かとは、少年だった。外見からしてレオナよりも数歳ほど幼い。光を浴びれば白銀にも見えるだろうパールグレーの髪と、大きなガーネットかと見紛う赤い瞳。遠くから見ても分かる繊細な金の刺繍が施された豪奢な白い衣装を着て、頭にはまた宝石や羽を飾り付けられた白いターバンが巻かれている。
 もしここがスラム街だったら一瞬で攫われてしまいそうな少年は、とぼとぼと音がしそうな足取りで歩いている。その表情は暗く、どこか不安そうだった。
 あの服は熱砂の国で見られるものだ。大方、熱砂の国の王族か、王族に並ぶ商人の子供が迷ってしまっているのだろうと察せられた。
 あんなに綺麗に飾り立てられてるなら、よほど大事にされているのだろう。レオナは少年を見なかったことにしてその場から離れようかと考えていると、やや水気を帯びた一対の紅玉がレオナを捉える。
 レオナがしまった、と思った瞬間に少年はこちらに走り出していた。逃げてしまおうかとも思ったが、少年の瞳があまりに必死だったから立ち止まって待ってしまう。
「あ、あの……お前も迷ったのか?」
 いきなり話しかけてきておいて随分と不遜な言葉遣いだ。ただ言葉の端から悪気は一切感じないため、これが普段の話し方なのだろう。レオナは「はっ」と鼻で笑った。
「俺はテメェと違って迷子じゃねぇよ、お坊ちゃん」
「そ、そうか。ごめん」
 突き放すように言えば、少年は素直に謝った。短めな眉を不安げに歪め、ずいと距離を詰めてきたかと思えば、レオナの手を取った。突然、他人に手を触られてびくりとレオナの尻尾が反応する。
 両手できゅ、とレオナの手を掴む少年は、瞳をさらに水気帯びさせてレオナを見上げてくる。
「オレ……珍しいものが多くてついあちこち見てたら気がついたらここにいて……迷っちまったんだ」
 素直に迷子であると訴える少年はいっそ潔かった。歳が近そうだからと警戒心を抱いていないのだろうか。少年が掴む手は、どんなものでも干上がらせて砂にしてしまう手だと言うのに。
 久方ぶりに感じる他者の体温に一瞬だけ気を取られたが、これ以上付き合うつもりはないと手を振り払おうとするが少年も必死なのか手は離れなかった。
「頼む! どこか人がいる場所まで案内してくれないか? お礼はするから!」
 そう訴える少年に、レオナは耳を伏せた。――これは彼の望みを叶えてやらなければ手を離してくれそうにない。
 もうすぐ準決勝が始まる時間になる。仕方ない、とっとと人気のあるところに連れて行くかと溜息を吐く。
「分かった分かった。案内してやるから手を離せ」
 鬱陶しくて仕方がないと言うと少年はパッと花が咲くような笑顔を見せる。安心したように綻ぶ表情に、思わず見惚れた。不安そうに瞳を暗くしていた時はどこか人形のようなイメージを抱かせていたが、笑った表情は生き生きとしていて可愛らしい。
「ありがとう! オレはカリム! お前は?」
「俺は……レオンだ」
 咄嗟に出たのは適当な名前だった。どうせもう会わないだろう。ライオンの獣人の子供なんて、調べられたらすぐに本当はどういった存在か分かるだろうが、今はそんなこと関係ない。
「レオンか! レオンと出会えてよかった。オレ、本当にどうすればいいか困ってて……」
「へぇへぇ、そうかよ……。というか、手を離せって言ったよな?」
「逸れたら嫌だから、繋いでたい……駄目か?」
 あちこちに注意が散漫した結果、迷ってしまったからだろう。カリムは手を離したくないと訴える。
 他人に手を握られることに慣れていないレオナは、カリムを脅かして手を離させてやろうと思った。
「お前が掴んでいる手は、なんでも砂に変えちまう魔法の手なんだぜ。砂にされたくなかったら手を離せ」
「魔法? レオンは魔法が使えるのか?!」
 凄いな! と目を輝かせるカリムに、レオナは呆れる。人の話を聞いていたのか?
 触れたものは人でさえも砂に変えてしまう、恐ろしい手だ。夕焼けの草原を護衛する大人たちでさえ恐れる手だ。そんな手を、カリムは恐れもせず握ってくる。
「言っただろ、なんでも砂に変えちまう手だって。お前を砂にしちまうかもしれないぜ?」
 意地悪く言ってみるが、カリムは何を言われているか分からないとばかりに瞬きをする。そうして、怖がるどころか破顔した。
「なんでも砂にしちまう手なら、オレはもうとっくに砂になってるだろ? でもオレはまだ砂になってない。レオンの手は、オレを助けてくれる優しい手だ、こわくなんてないよ」
 カリムの素直な、そしてきっと心からの言葉に、レオナは動揺した。国では恐れられ、忌避される力をカリムは怖くないと言う。それどころかぎゅっと先ほどよりも力を込めてレオナの手を握りしめる。
 思わずレオナは呆然とカリムの顔を見つめる。カリムはどうしたんだ? と笑うばかりで、本当に怖くないらしい。右手に感じる柔らかい感触と子供らしい高い体温に、レオナの顔は熱くなった。そうだ、顔が熱く感じるのは手が熱いからだ。
「…………そうかよ」
 レオナは少しだけ力を入れてカリムの手を握り返した。
 会場内を少し歩けば、すぐにカリムを探しているであろう大人たちが声を上げてうろうろしているのが、レオナの鋭い聴覚が捉えた。早く教えてやればいいのに、レオナはすぐにはそれを教える気にならなかった。この手が離れてしまうのがどうしても惜しい、と思ってしまったのだ。
 しかし、距離もそう遠くない。カリムもやがて声に気づくだろう。その前に帰してやった方がレオナにとってもカリムにとっても良いに違いない。
 尻尾をふるりと揺らした後、カリムに向き合う。
「あっちの方からお前を呼ぶ声が聞こえるぞ」
 まだ声が聞こえていないカリムが「そうなのか?」と嬉しそうに声を上げる。これでカリムとはお別れだ。きっともう会うこともないだろう。
 カリムはとっとと行ってしまうかと思ったが、立ち止まったまま、何かを考えている。
「もうレオンとはお別れなのか?」
「……そうだな、もう会うことはないだろうな」
 レオナがそう言うと、カリムは悲しそうな顔をする。どうしてそんな表情をするのだと、レオナは聴きたくなった。
「そうだ、お礼……何が良いかな。あ、この宝石なんてどうだ?」
 そう言ってカリムはターバンの装飾の宝石を外そうとする。レオナはそれを止めて、珍しい色をした羽の方を掴んだ。
「宝石なんざいらねぇ。それよりも、こっちを寄越せ」
「そんなので良いのか?」
「こんなので良いんだよ」
 レオナは丁寧な手つきでカリムのターバンから羽を取る。赤と青のグラデーションがかった鮮やかな羽がレオナの手に落ちる。
「それじゃあレオン……オレ、行くな」
 最後にきゅう、と手を握られるとカリムの手が離れていく。それを追いたくなる衝動を抑え、レオナはカリムの体温が残る手を握りしめた。
「その羽を見て、オレのことを思い出してくれたら嬉しい! オレも、レオンのこと絶対に忘れないから!」
「別に覚えて追いてくれなくて良い。……さっさと行け、かなり心配してるぞ」
「わっ、まずい! それじゃあレオン、またいつか!」
 カリムは笑顔で言うと声の方向へ走り去っていった。だから、もう会うことはないと言ったのに。レオナは羽をくるりくるりと回して、誰にも見つからないようにポケットにしまった。
 ――その後、席に戻った時には準決勝試合が始まっていて、ファレナに心配されたが、レオナはそれを聞き流した。
 後々レオナはカリムのことを調べたが、カリムはなんとアジーム家の長子であることが分かった。やはりもう会うことはないだろうとレオナはカリムから貰った羽を見つめた。


  ◆


 それから九年後。なんの因果かナイトレイブンカレッジにカリムが編入してきた。レオナが必修科目の出席日数が足りずにダブった二年の年だった。
 レオナはカリムの存在をカリムが一年の頃から気づいていたが、積極的に会いに行こうとはしなかった。それが変わったのが、レオナが三年に上がり、カリムが二年にして寮長になった時だった。
 カリムはやはりというか、レオナのことは覚えていないようだった。忘れないと言ったくせに、随分と薄情だ。とは言っても、あの時のレオナは偽名を名乗ったし、気づかれなくても仕方がない。
 カリムはナイトレイブンカレッジの生徒に相応しくない朗らかな性格で、誰にでも親しげに接する。誰かが悩んでいたら同じように悩んで、誰かが辛いことがあったらそっと寄り添ってやる。そんなカリムはスカラビアの寮生からかなり慕われているようだった。
 レオナとカリムの関係はただの先輩と後輩、同じ寮長であるというくらいで、他に関わりはなかった。
 
 レオナが珍しく図書館で本を読んでいる時だった。レオナはカリムから貰った羽を、保存魔法までかけて大事にし、栞がわりに使っていた。
 そこへカリムが課題を抱えてやって来たのだ。
「よっ、レオナ。勉強か?」
「違ぇよ。どこかのばかと違ってただの読書だ」
「あはは……そう言われると何も言い返せないな」
 レオナの許可なく同じテーブルに課題を広げ始めるカリムに、レオナは何も言わなかった。言うだけ無駄だ。それに、カリムと一緒にいるのは悪くない。羽を撫でながらカリムの様子を窺う。
 相変わらず最上級のガーネットのような瞳が、今はノートと教科書に視線を落としている。窓から差し込む光りに照らされてきらきら光る髪も美しい。ターバンが少しよれているのは自分で巻いたからだろうか? レオナは本を読むことを放棄してカリムの観察をしていた。
 するとカリムの口がゆるゆるとなんとも言い難い、擽ったそうな形で結ばれる。
「あのな、レオナ。さすがにそこまで見られると緊張するぜ?」
 照れたように言うカリムに、そんな感情を持ってたのかと感心する。否、確かに見すぎていた自覚はあるが。
「簡単な課題に随分頭を悩ませてるから、ついつい見ちまったぜ。悪いなぁ?」
「それ絶対悪いって思ってないだろ! ……ん? その羽、」
 レオナが撫でていた羽にカリムは目を留める。するとカリムは目を瞠った。まるで信じられないものを見たとでも言うような表情だ。それからカリムの視線がゆっくりとレオナの顔へと移る。
「レオン……?」
 どこか震えた声だった。そんなことよりも、カリムの言ったことがレオナ重要だった。かつてレオナがカリムに教えた名前だ。レオナも思わず瞠目する。
 忘れられていたのだと思っていた。あの時に教えた偽名を、まさか覚えているなんて。寮長として初めて会った時、カリムはレオナに気付かなかったのに。
「な……んだよ、レオナがレオンだったのか!?」
「……カリム、静かにしろ」
「もっと早く言ってくれれば良かったのに! そうしたらオレ……!」
「おい……っ」
 気持ちが抑えきれないとばかりに立ち上がってレオナに話しかけるカリムを止めようと声を上げると、ごほんと態とらしい咳払いの音が響いた。
 音の方を向けば、図書館の司書がいたし、複数の視線がこちらに向いていた。
「図書館ではお静かに」
 そうしてレオナとカリムは仲良く図書館から追い出された。よくぞ悪名高いサバナクロー寮長と、色々と話題を事欠かないスカラビア寮長が揃っているところに怖気もなくやってきてキビキビと二人を追い出したものだ。それくらい肝が据わっていないとナイトレイブンカレッジの図書館で司書などできないのだろう。
 課題を抱えたカリムが申し訳なさそうにレオナに首を垂れている。
「悪い……オレが煩くしちまったから……」
「全くだ……」
「で、でもレオナがレオンだってことをもっと早く教えてくれてれば良かったのに! レオナはオレのこと気付いてただろ?」
 カリムの言うとおり、レオナはカリムを覚えていたし気付いていた。カリムは何も変わっていなかったから、すぐに気付いた。それでいて何も言わないことを選択した。馬鹿みたいに言われたとおり、羽を見るたびにカリムのことを思い出していたくせに。なんとなくバツが悪くなり視線を逸らした。
 そんなレオナのことに気付いていないのか、カリムはレオナの前に立つ。正面で向き合い、カリムはレオナにまるで縋るように近づく。
「オレ……レオナのこと全然気付けなかった……絶対に忘れないって言ったのに、ごめん」
「――チッ、別に謝るようなことじゃねぇだろ」
「だってレオナはその羽を大事にしてくれてるだろ? オレのこと、忘れずにいてくれたってことだ」
 しょんぼりと項垂れるカリムの言葉にレオナは何も返せなかった。確かにちゃんと顔を合わせた時に全く気付かれなかったことには気落ちしたが、十年も前のことだから忘れられてても仕方ないことだと。普通なら忘れていて当然だ、ほんの数分だけ一緒にいた相手のことを覚えているなんて、分かるわけがない。
「オレだってレオンのこと、忘れたことはなかったのに、またなって言ったのに」
 悲しそうに肩を落とすカリムにレオナは焦る。
「なんだってそんなに気にするんだよ……分からねぇな。それに俺はあの時にもう会うことはないって言っただろ」
「でもまたこうやって出会えたんだ、奇跡みたいだろ? それなのにオレだけ……違うんだ、言い訳させてくれ!」
 言い訳とは、レオナのことをすぐに気付けなかったことに対する言い訳か。ここまで来たら話を聞いてやらないとカリムの気がすまないだろう。仕方なくその言い訳とやらを聞いてやることにした。――けれど、その言い訳を聞くことをレオナはすぐに後悔することになる。
「十年前に会った時よりもレオナがずっと綺麗だったから気付けなかったんだ! 悪い!」
 そう言って頭を下げるカリムに、レオナは何を言ってるんだと頭を抱えたくなった。だが、カリムの言い訳は続く。
「初めて会った時も綺麗な子だと思ってたけど、レオナと寮長として顔を合わせた時にレオナほど綺麗な人も見たことないなって……でもよく考えたらもともと綺麗な子だったんだからもっと綺麗になるのは当たり前だよなぁ。もしかしたら目元の傷があったから気付けなかったのかも……オレを助けてくれた時はなかったよな? あ、傷ができた理由とかを聞きたいわけじゃないんだ。それから――」
「もういいからそれ以上何も言うな!」
 カリムの口を抑え、言葉を遮る。レオナの手袋越しに不満を訴えるカリムの抗議の声が上がったが、これ以上は聞いていられないとばかりに耳を伏せた。なんだその理由は、綺麗だったから気付かなかった、だと? もしも今、カリムから手を離したらレオナを讃える言葉しか出てこない気がして手が離せなかった。
 尻尾が落ち着きなくゆらゆらと揺れる。国でよく聞くおべっかだと思いたかったが、カリムは思考と発言がそのまま繋がっているような人間だ。つまりはカリムは心から思っていることを言っている。それがレオナを落ち着かなくさせたし、顔を熱くさせた。
「んーっ、むーっ!」
「……お前の言いたいことはよく分かったからこれ以上言い訳を続けようとするな、絶対にだ」
 グルル、と威嚇するように喉を鳴らすとカリムは不思議そうに瞬きを繰り返した後にそれを了承した。警戒しながら手を離すとカリムはぷはぁっ、と息を吐き出した。
「分かってくれたか?」
「ああ……嫌ってほど分かったぜ。お前が本当に馬鹿だってことがな」
「なんでだ!?」
 レオナの言葉に驚くカリムだが、否定はしなかった。馬鹿という自覚はあるらしい。そんな自覚こそ捨ててしまえとレオナは思う。
「でも良かったぜ、レオナがレオンだって分かって」
 やりかけの課題を抱え直したカリムが嬉しそうに言う。
「何がそんなに嬉しいんだよ。感動の再会でもしたかったのか?」
 だから、どうしてそんなに嬉しいのかと問うた。それに対して、またしても爆弾を落とされるなんてことに気づくことなく。
「オレの初恋はレオナだから!」
 頬を淡く染め、花ひらくような笑顔を見せたカリムは、言いたいことを言いたいだけ言ったとばかりに踵を返した。
「オレは寮に戻って課題の続きをやるよ。じゃあまたな、レオナ!」
 軽やかな足取りで鏡舎に向かっていくカリムを、レオナは停止した思考で見送ることしかできない。

 ――あいつはさっき、なんて言った?

  レオナは両手で顔を覆い、その場にしゃがみ込んだ。ああ、なんだ、なんて奴なのだ、あいつは。未だ初恋を拗らせている人間に対して、なんてことを言うのか!
「くそ、絶対に逃さねぇからな……」
 サマーグリーンの瞳が、ぎらりと光る。捨てようと何度も思って捨てられなかった想いを拾い上げられ、それが一気に熱を持つのを感じた。
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