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カブライ / 年下の男の子

 都内にある某高校の前にて。詰襟の制服と、成長途中の体躯が目立つ中学生と思わしき少年が立っていた。
 少年とはいえその顔はひどく整っており、横を通り過ぎる女子高生たちはひそひそと声を立て、少年に声を掛けるか掛けまいかと色めき立っている。高校生と中学生で些か歳が離れているが、それを無視しても良いと思えるほど少年は端正な顔立ちに、顔を赤める女子高生もいた。
 そんな少年は芯が入っているように背筋をピンと伸ばし、誰かを待っているようだった。その雰囲気が声を掛けるかどうかを迷わせるのだ。
 校門から昇降口をじっと見つめていた青の瞳がきらりと光る。そして片手を挙げ、ぶんぶんと大きく振る。
「ライオス!」
 呼ばれたのはその高校で一番の変人と有名な生徒の名前だった。薄茶の髪をした青年は、自分に向けられた声に下に向けていた視線を上げる。
「カブルー?」
 少年の名を呼んだ。ライオスにカブルーと呼ばれた少年は早く来いとばかりに手を振る。ライオスは不思議そうに首を傾げた後、駆け出してカブルーの元へと行く。
 カブルーは走り出したライオスを見ると腕を振るのをやめ、今度は腕を組んであからさまに怒っています、という態度を取り出した。
「どうしたんだ、カブルー。学校まで来て」
 やっとカブルーの元に辿り着いたライオスの一声に、カブルーはギャンと喚き始めた。
「どうしたんだ、じゃないですよ! 今日は一緒に買い物に行こうと約束してたじゃないですか! いつまで待っても来ないから迎えに来たんです!」
 そういえばそうだった、と今更になって思い出したような顔をするライオスを、カブルーはじとりと睨みつけた。
「今度は何があったんですか」
「いや、具合が悪いから掃除当番を代わってくれと言われて」
「それでおとなしく代わったんですか?」
「そうだけど……」
 カブルーはこれみよがしに大きなため息を吐く。それからびしりと伸ばされた人差し指をライオスに向ける。
 ライオスはそれに対して「人を指差ししたら駄目だぞ」と指を降ろさせる。そんな理由で手を握られたカブルーはなぜか顔を赤らめながら、それでも口を開く。
「今度からは俺と約束があるから交代できないと言ってください」
「でも困っていたら助けてやるべきじゃないか?」
「あんたにそう言ってくる人間は大抵困っている人間じゃありません。そんな奴より俺を優先してください」
 傍から聞けばまるで恋人同士のような会話である。彼女のわがままに振り回される彼氏のようだ。
 どういう関係? と奇異の目が向けられるが、二人はお構いなしに会話を続ける。
「どうして困っていないとわかるんだ? 俺には本当に困っていたようにしか見えなかった」
「ライオスにはそう見えていたかもしれませんが違います。これは断言できます。良いから俺の言うことを聞いて。俺が言ったことで間違ったことはありますか?」
「……ないな」
 でしょう、とどこか得意げなカブルーは「今度からは断ってくださいね」とライオスに釘を刺す。ライオスは困惑した表情だ。
「君との約束がない時は?」
「それでも俺との約束があると言って良いですよ」
「嘘を吐くのは苦手なんだが……」
「嘘じゃなければ良いんですね。それじゃあ明日からもちゃんと俺に付き合ってください」
「まあ良いけど……」
 この会話を聞いていた周囲の一部は、これで今度からライオスに掃除当番を押し付けても断られるんだろうなと思う。それにしても、カブルーという名の少年は何者なんだ? ライオスに対して馴れ馴れしくあり、親しげでもある。
 興味を持ったらしい二人組の女子生徒が、ライオスたちに寄って行った。
「トーデンくん、その子って誰? 凄く格好いいじゃん! 紹介してよ〜」
 まずは軽いジャブ。どういう関係か、あわよくばカブルーにお近づきになりたいという欲を隠さずに――ライオス相手に何かを隠すという行為は無意味であると知っているからだ――近づく。
 ライオスに声を掛けたのだが、それに答えたのはカブルーの方であった。
「初めまして、カブルーと申します。ライオスの幼馴染です」
「えっ、こんな格好いい幼馴染がいたの!?」
 教えてくれてもよかったじゃん! ときゃらきゃらと色めく女子高生に、ライオスは誰だろうという視線を向けている。そんなライオスの脇を肘で小突いたカブルーは、「あんたのクラスメイトだよ」と小声で伝えていた。どうしてそんなことをカブルーが把握しているのかというと、文化祭の折に覚えたらしい。カブルーは物覚えがいいなぁとライオスは感心しきりである。
「格好いいと言っていただけて光栄です。では、僕たちは用があるのでこれで」
 そう言ってカブルーはライオスの腰に手を回して立ち去ろうとする。それがあまりに自然な動きだったため、女子高生たちも、周囲から見ていた者たちもそのまま見送ってしまいそうになった。
 いやいやおかしいだろう。中学生男子が高校生男子の腰を抱き、エスコートしていくのは。
「ま、待ってよカブルーくん! あたし達と一緒にお茶とかしない?」
 女子高生は慌ててカブルーたちを引き止めようとした。しかし、返ってきたのはぞっとするような冷たい視線だった。
「あなた達も確かライオスと同じ受験生ですよね? 悪いですが、お茶をする余裕はライオスにはないので」
「う、そう言われると辛い……」
 がくりと肩を落とすライオスと、相変わらず冷たい視線のカブルーに、女子高生達は何も言えなくなった。ライオスの勉強の進み具合を知っているような物言いや、これ以上自分達に関わるなという空気に当てられてしまったのだ。
「さ、ライオス。まずは本屋に行きましょう。そしたら家で勉強ですよ」
「君はまだ受験生じゃないじゃないか」
「来年は俺も受験生ですから。今から勉強を始めても問題ありません」
「でもここを受けるんだろ? 言っちゃなんだが、君ならもっと頭のいい学校を狙えると思うんだけど……」
「俺がここがいいと言ってるんです。いいから行きましょう」
 そうやって言い合いながらカブルーとライオスは去っていった。好奇心でやり取りと見守っていた生徒を残していって。
 結局、あの二人はただの幼馴染だったのだろうか? それにしては、カブルーという少年のライオスを見つめる目つきやライオスを触れる手つきがそれだけではないと感じさせるものだった。

 その日から学校一の変人に、彼には厄介な幼馴染がついていると噂が立つようになったのだった。畳む
    

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