2024/11/29 DiD カブライ / 痛いの痛いの飛んでいけ続きを読む 夜になると脚がしくしくと痛む。最近はその痛みがひどく、新生メリニが建国して数年が経ち、ようやく不眠症が治ってきたと思ったらこれだ。カブルーは本を抱え直して黄金城にある自室を目指す。 今日も膝の辺りが痛む。早くベッドに入って休みたい。ベッドに入ったところで治るわけではないが。かといって朝になったら痛みは治っているから医者に見せるほどでもない。 なんだこれはと思っていると、その答えは彼の王にあっさりと齎された。「君、身長伸びたか?」 ライオスが身長を測るように手をかざす。 はぁ? とトールマンの男性平均身長に満たないことがコンプレックスであるカブルーが、喧嘩でも売ってるのかと若干苛立って返事をしようとするが、はたと止まる。以前はしっかりとライオスを見上げていたが、今では目線の位置が近い。 確かに身長が伸びているようだと気づいたカブルーは、最近起こる自分の体の異変に納得がいった。「だから脚が痛むのか……」 この歳で成長痛で悩んでいたのかと思うと少し恥ずかしい。そんなカブルーの声を耳聡く拾ったのか、ライオスがカブルーの脚を見る。「脚が痛む? 成長痛かな」「聞こえたんですか……実はここのところ毎晩脚が痛くてなかなか眠れなくて」「カブルーの体が大きくなっている証拠だけれど、眠れないのはいただけないな……よし。今夜、君の部屋に行ってもいいかい?」「えっ?」 痛みで夜眠れないのと、部屋に来るのと何の関係が? いや、ライオスが部屋に来てくれるのは嬉しいけれど。そうやってぐるぐる考える複雑な表情をカブルーが見せると、ライオスは微笑む。「脚を摩ってやったら少しはマシになるかもしれないだろう? 俺の手は人より暖かいし、効果はあるんじゃないかなって」 下心も何もない善意を寄せられて、カブルーは少しがっかりしたものの、それ以上に驚嘆する。「それは王がすることじゃないです!」「王としてではなく、友人としてカブルーの役に立ちたいんだ」「その気持ちは嬉しいですが、実際に俺はあんたの臣下であんたは王なんだから、そこらへんのとこちゃんとしてくださいって言ってんですよ!」 そう言うと、ライオスが少し剥れた表情になる。友人のために行動を起こせないとは、王というのはなんて面倒くさい職業なんだとでも言いたげだ。 かといって特に難病を患っているわけでもないのに王自ら臣下の部屋に赴くなんて、あってはいけないだろう。 そう重ねて言えば、今度はライオスはこう言い出した。「じゃあ君が俺の部屋に来ればいいんだ」 臣下が王の部屋に赴くのは別に良いだろうと言うライオスに、確かにそれはそうだけれどと考えかけたが、それがどういう意味を持つのかと言うことに気づく。「それって、俺にライオスの部屋で一夜明かせと言うことですか……?」 恐る恐る尋ねると、ライオスは何を当たり前のことをとばかりにあっさりと頷く。「そうに決まっているだろう。大丈夫だ、俺の部屋のベッドは広いから」 ベッドが広いとかそういう問題ではない! 暴れ出したくなるのを堪えてカブルーは頭を抱えた。王が臣下と同衾したとなれば、一体どんな噂が流れるだろうか。 カブルーとしては外堀を埋めていくために噂が流れることぐらい構わないが、それでライオスに不名誉なレッテルが貼られたりしたら自分が許せない。 うんうんと悩んでいると、ライオスがおずおずと上目遣いでカブルーの瞳を覗き込んだ。「俺に摩られるのは嫌か……?」 自分より背が高いくせにどうして上目遣いなんてできるんだ、とか、そんな顔すればなんでも許されると思うなよ、とか。言いたいことは山ほどあったが、カブルーが言えたのはただ一言だけ。「今夜、部屋にお伺いします……」 ライオスの部屋に赴き、痛む脚を摩ってもらうことが確定した。 そうして夜を迎える。 カブルーは王の寝室の前で、扉をノックすることもできずに立ち尽くしていた。ライオスから話を聞いていたであろう守衛が、カブルーの存在を気にしてちらちらと視線を向けてくる。その視線は早くノックでもして中に入れと言っていた。約束しているんだろう、と。 そうなのだが、中に入ってしまえば最後。ライオスの匂いでいっぱいの部屋で、ライオスのベッドの上で、ライオスに脚を摩られることになる。果たして耐えられるのか、己の理性。 今も脚が痛むが、それ以上に心臓が痛い。非常に早鐘を鳴らしている心臓を、どんと胸の上から強めに叩いた。 ライオスにその気がないことは分かっている。自分たちはまだ良き友人だ。しかし、だからと言ってカブルーは好いた相手の部屋のベッドの上で何もしないでいられるほど自分が聖人ではないことも理解していた。 だから迷っている、このままライオスの部屋に入ることに。しかし訪ねなければ約束を反故することになる。そうすればライオスは悲しむだろうと思うとここから立ち去るわけにもいかず。 何度もノックをしようと手を持ち上げ、待て待てと理性がそれを降ろさせる。守衛の視線が、いっそ代わりにノックでもしようか? と言いたげなものに変わり始め、カブルーの足の痛みも限界を見せ始めた頃。 扉は開かれた。それも内側から。「カブルー? なんだ、来ていたのか。迎えに行こうかと思っていたよ」「仕事が溜まっていて。ちょうど今来たところです」 嘘を吐けもう十分は立ち尽くしていただろうと守衛の視線が語っていたが、カブルーは笑顔で無視をする。だが、これでもうあとには引けなくなった。扉は開かれてしまったのだ。他の誰でもない、ライオスの手によって。 この一晩、何事もなく過ごすということを固く決意して、カブルーは足を踏み出した。 ――そして分かりきっていたことだが、決意も覚悟も今や風前の灯となっていた。 ライオスにベッドに招かれ、横になり、脚を優しく摩られる。痛む箇所を的確に摩ってくれて、その手の温度も相まってか、カブルーの脚の痛みが和らぐ、と同時にどこかが硬くなりそうになるのを必死に堪えていた。カブルーの頭の中は今、主要国家の都市名がずらりと並んでいる。「痛みは引いてきたかい?」「ええ、おかげさまで脚の痛みが引いてきました」 代わりに別の部分が痛いですとは決して言わない。そんなこと思っていないという笑顔で答える。「ふふ、君の役に立てたなら嬉しいな。いつもカブルーには助けてもらってばかりだから」「そんなことないですよ。ライオスだって良き王として頑張っています」「そうかな。カブルーに言ってもらえると自信がつく」 逃走癖があるというライオスが投げ出さずに玉座に着いているだけでありがたいのに、苦手な書類仕事も人と関わることも、全部頑張っているではないかと思いながら言うと、ライオスは頬を染めて照れくさそうに微笑んだ。 今この瞬間には大変よろしくない笑顔である。カブルーは咄嗟にかつて食べたハーピーの卵焼きの味を思い出してなんとかことなきを得た。「カブルー、このまま眠ってしまってもいいんだよ」 我が君よ、この状況では全然眠れないです。むしろ起きそうなんです。カブルーはそんなことを心の中で訴えながらも、健気に「主君が起きているのに眠れません」と答えた。忠臣としては百点満点の答えだが、実際は残念な理由である。「そういえばカブルー、髪も伸びてきたね」「そうですね……切りに行く余裕がなくて。たまに自分で切っているんですけど」 言った通り、一応横に広がりすぎないように自分で髪を切ってはいるが、じっくりと専門の職人に切ってもらっていない。 ライオスに指摘されて急に変ではないかと心配になってきた。カブルーは自身の手先が器用なつもりではいたが、もしライオスに変だと思われたら耐えられないかもしれない。「へぇ、自分で切っているのか! うまいなぁ、よく似合っているよ」 今度、俺の髪も切ってもらおうかなぁ。なんて言いながら脚を摩ってくれるライオスに、カブルーは呼吸を止めて一秒、真剣な表情になってしまった。ライオスはカブルーの表情の変化には気づかなかったが。 声が震えそうになるのを堪え、「ライオスの髪が伸びてきたら切ってあげますよ」となんとか答えることができた。切り落としたライオスの髪を自分はどうするのだろう。なんて飛んでいきそうになる思考を必死に掴みながら。「あの、ライオス。もう脚の痛みは十分取れたので……」 これ以上ここにいるのはまずい、と思って切り出す。本当に痛みは取れたし、今からなら自室に戻って安らかに眠れる気がする。そう思って言ったのだが、ライオスは「そうか?」と言うと、「じゃあ寝ようか」 とカブルーの隣に身を寄せて横になってしまった。これにはもう、カブルーにとって呼吸が止まるどころの話ではなかった。思考も止まったし時間も止まったような気がした。 しかし伊達に次期宰相候補と呼ばれているわけではないカブルーである。「いやあの、俺、自分の部屋に戻るんで」「なぜ? そうしたらまた脚が痛みだした時に俺が摩ってあげられないだろう? それに言っただろう、今夜はこの部屋で一夜を明かせって」「えっ、でも、えっえっ」「ほらほら、睡眠は大事なんだから眠れるうちに寝よう」 ぽんぽんと背中を優しく叩かれ、寝かしつけられる。 ――こんな近距離で眠れるか! そう思っていたのに、ライオスの体温が心地よく、自然と瞼が重くなってくる。ライオスの声がだんだんと遠くなっていき、気がついたら朝を迎えていた。実に健全な夜だった。 噂が流れることもなく、ライオスに変なレッテルが貼られることはなく。カブルーの成長痛が治るまで健全な夜は続いたのだった。 不健全な夜を迎えられるようになったのは、それから更に一年経った後のことである。畳む
夜になると脚がしくしくと痛む。最近はその痛みがひどく、新生メリニが建国して数年が経ち、ようやく不眠症が治ってきたと思ったらこれだ。カブルーは本を抱え直して黄金城にある自室を目指す。
今日も膝の辺りが痛む。早くベッドに入って休みたい。ベッドに入ったところで治るわけではないが。かといって朝になったら痛みは治っているから医者に見せるほどでもない。
なんだこれはと思っていると、その答えは彼の王にあっさりと齎された。
「君、身長伸びたか?」
ライオスが身長を測るように手をかざす。
はぁ? とトールマンの男性平均身長に満たないことがコンプレックスであるカブルーが、喧嘩でも売ってるのかと若干苛立って返事をしようとするが、はたと止まる。以前はしっかりとライオスを見上げていたが、今では目線の位置が近い。
確かに身長が伸びているようだと気づいたカブルーは、最近起こる自分の体の異変に納得がいった。
「だから脚が痛むのか……」
この歳で成長痛で悩んでいたのかと思うと少し恥ずかしい。そんなカブルーの声を耳聡く拾ったのか、ライオスがカブルーの脚を見る。
「脚が痛む? 成長痛かな」
「聞こえたんですか……実はここのところ毎晩脚が痛くてなかなか眠れなくて」
「カブルーの体が大きくなっている証拠だけれど、眠れないのはいただけないな……よし。今夜、君の部屋に行ってもいいかい?」
「えっ?」
痛みで夜眠れないのと、部屋に来るのと何の関係が? いや、ライオスが部屋に来てくれるのは嬉しいけれど。そうやってぐるぐる考える複雑な表情をカブルーが見せると、ライオスは微笑む。
「脚を摩ってやったら少しはマシになるかもしれないだろう? 俺の手は人より暖かいし、効果はあるんじゃないかなって」
下心も何もない善意を寄せられて、カブルーは少しがっかりしたものの、それ以上に驚嘆する。
「それは王がすることじゃないです!」
「王としてではなく、友人としてカブルーの役に立ちたいんだ」
「その気持ちは嬉しいですが、実際に俺はあんたの臣下であんたは王なんだから、そこらへんのとこちゃんとしてくださいって言ってんですよ!」
そう言うと、ライオスが少し剥れた表情になる。友人のために行動を起こせないとは、王というのはなんて面倒くさい職業なんだとでも言いたげだ。
かといって特に難病を患っているわけでもないのに王自ら臣下の部屋に赴くなんて、あってはいけないだろう。
そう重ねて言えば、今度はライオスはこう言い出した。
「じゃあ君が俺の部屋に来ればいいんだ」
臣下が王の部屋に赴くのは別に良いだろうと言うライオスに、確かにそれはそうだけれどと考えかけたが、それがどういう意味を持つのかと言うことに気づく。
「それって、俺にライオスの部屋で一夜明かせと言うことですか……?」
恐る恐る尋ねると、ライオスは何を当たり前のことをとばかりにあっさりと頷く。
「そうに決まっているだろう。大丈夫だ、俺の部屋のベッドは広いから」
ベッドが広いとかそういう問題ではない! 暴れ出したくなるのを堪えてカブルーは頭を抱えた。王が臣下と同衾したとなれば、一体どんな噂が流れるだろうか。
カブルーとしては外堀を埋めていくために噂が流れることぐらい構わないが、それでライオスに不名誉なレッテルが貼られたりしたら自分が許せない。
うんうんと悩んでいると、ライオスがおずおずと上目遣いでカブルーの瞳を覗き込んだ。
「俺に摩られるのは嫌か……?」
自分より背が高いくせにどうして上目遣いなんてできるんだ、とか、そんな顔すればなんでも許されると思うなよ、とか。言いたいことは山ほどあったが、カブルーが言えたのはただ一言だけ。
「今夜、部屋にお伺いします……」
ライオスの部屋に赴き、痛む脚を摩ってもらうことが確定した。
そうして夜を迎える。
カブルーは王の寝室の前で、扉をノックすることもできずに立ち尽くしていた。ライオスから話を聞いていたであろう守衛が、カブルーの存在を気にしてちらちらと視線を向けてくる。その視線は早くノックでもして中に入れと言っていた。約束しているんだろう、と。
そうなのだが、中に入ってしまえば最後。ライオスの匂いでいっぱいの部屋で、ライオスのベッドの上で、ライオスに脚を摩られることになる。果たして耐えられるのか、己の理性。
今も脚が痛むが、それ以上に心臓が痛い。非常に早鐘を鳴らしている心臓を、どんと胸の上から強めに叩いた。
ライオスにその気がないことは分かっている。自分たちはまだ良き友人だ。しかし、だからと言ってカブルーは好いた相手の部屋のベッドの上で何もしないでいられるほど自分が聖人ではないことも理解していた。
だから迷っている、このままライオスの部屋に入ることに。しかし訪ねなければ約束を反故することになる。そうすればライオスは悲しむだろうと思うとここから立ち去るわけにもいかず。
何度もノックをしようと手を持ち上げ、待て待てと理性がそれを降ろさせる。守衛の視線が、いっそ代わりにノックでもしようか? と言いたげなものに変わり始め、カブルーの足の痛みも限界を見せ始めた頃。
扉は開かれた。それも内側から。
「カブルー? なんだ、来ていたのか。迎えに行こうかと思っていたよ」
「仕事が溜まっていて。ちょうど今来たところです」
嘘を吐けもう十分は立ち尽くしていただろうと守衛の視線が語っていたが、カブルーは笑顔で無視をする。だが、これでもうあとには引けなくなった。扉は開かれてしまったのだ。他の誰でもない、ライオスの手によって。
この一晩、何事もなく過ごすということを固く決意して、カブルーは足を踏み出した。
――そして分かりきっていたことだが、決意も覚悟も今や風前の灯となっていた。
ライオスにベッドに招かれ、横になり、脚を優しく摩られる。痛む箇所を的確に摩ってくれて、その手の温度も相まってか、カブルーの脚の痛みが和らぐ、と同時にどこかが硬くなりそうになるのを必死に堪えていた。カブルーの頭の中は今、主要国家の都市名がずらりと並んでいる。
「痛みは引いてきたかい?」
「ええ、おかげさまで脚の痛みが引いてきました」
代わりに別の部分が痛いですとは決して言わない。そんなこと思っていないという笑顔で答える。
「ふふ、君の役に立てたなら嬉しいな。いつもカブルーには助けてもらってばかりだから」
「そんなことないですよ。ライオスだって良き王として頑張っています」
「そうかな。カブルーに言ってもらえると自信がつく」
逃走癖があるというライオスが投げ出さずに玉座に着いているだけでありがたいのに、苦手な書類仕事も人と関わることも、全部頑張っているではないかと思いながら言うと、ライオスは頬を染めて照れくさそうに微笑んだ。
今この瞬間には大変よろしくない笑顔である。カブルーは咄嗟にかつて食べたハーピーの卵焼きの味を思い出してなんとかことなきを得た。
「カブルー、このまま眠ってしまってもいいんだよ」
我が君よ、この状況では全然眠れないです。むしろ起きそうなんです。カブルーはそんなことを心の中で訴えながらも、健気に「主君が起きているのに眠れません」と答えた。忠臣としては百点満点の答えだが、実際は残念な理由である。
「そういえばカブルー、髪も伸びてきたね」
「そうですね……切りに行く余裕がなくて。たまに自分で切っているんですけど」
言った通り、一応横に広がりすぎないように自分で髪を切ってはいるが、じっくりと専門の職人に切ってもらっていない。
ライオスに指摘されて急に変ではないかと心配になってきた。カブルーは自身の手先が器用なつもりではいたが、もしライオスに変だと思われたら耐えられないかもしれない。
「へぇ、自分で切っているのか! うまいなぁ、よく似合っているよ」
今度、俺の髪も切ってもらおうかなぁ。なんて言いながら脚を摩ってくれるライオスに、カブルーは呼吸を止めて一秒、真剣な表情になってしまった。ライオスはカブルーの表情の変化には気づかなかったが。
声が震えそうになるのを堪え、「ライオスの髪が伸びてきたら切ってあげますよ」となんとか答えることができた。切り落としたライオスの髪を自分はどうするのだろう。なんて飛んでいきそうになる思考を必死に掴みながら。
「あの、ライオス。もう脚の痛みは十分取れたので……」
これ以上ここにいるのはまずい、と思って切り出す。本当に痛みは取れたし、今からなら自室に戻って安らかに眠れる気がする。そう思って言ったのだが、ライオスは「そうか?」と言うと、
「じゃあ寝ようか」
とカブルーの隣に身を寄せて横になってしまった。これにはもう、カブルーにとって呼吸が止まるどころの話ではなかった。思考も止まったし時間も止まったような気がした。
しかし伊達に次期宰相候補と呼ばれているわけではないカブルーである。
「いやあの、俺、自分の部屋に戻るんで」
「なぜ? そうしたらまた脚が痛みだした時に俺が摩ってあげられないだろう? それに言っただろう、今夜はこの部屋で一夜を明かせって」
「えっ、でも、えっえっ」
「ほらほら、睡眠は大事なんだから眠れるうちに寝よう」
ぽんぽんと背中を優しく叩かれ、寝かしつけられる。
――こんな近距離で眠れるか!
そう思っていたのに、ライオスの体温が心地よく、自然と瞼が重くなってくる。ライオスの声がだんだんと遠くなっていき、気がついたら朝を迎えていた。実に健全な夜だった。
噂が流れることもなく、ライオスに変なレッテルが貼られることはなく。カブルーの成長痛が治るまで健全な夜は続いたのだった。
不健全な夜を迎えられるようになったのは、それから更に一年経った後のことである。
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