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カブライ / 誕生祭のその後で

 ライオスは部屋へと戻ってくると、ベッドの上にぐったりと倒れ込んだ。
 朝は祭りの開催を待つ国民たちの前で自分の誕生日に挨拶をし、諸外国から来たお偉方の面談をやっと終えたかと思えば立食パーティー。主役でありながらもやはり挨拶などで食事を楽しむ暇もなく。
 善意も悪意も含まれた視線をずっと感じているのは居心地が悪く、早々に立食パーティーも辞した。
「疲れた……誕生日ってこんなに疲れるものだったのか……」
「お疲れ様です。立派でしたよ」
 言いながら部屋に入ってきたのは、立食会場から立ち去ったライオスを追ってきたであろうカブルーだった。
 その腕には籠と取り皿とカトラリーを持っている。それをぼんやりと見ていると、先日カブルーが言っていたことを思い出した。
 ――特別なチーズケーキと、チーズケーキにぴったり合うワイン。
 ベッドから降りて窓際にあるテーブルに近づく。カブルーはテーブルの上にワンホールのチーズケーキと、ワインのボトルを一本。グラスを二脚それぞれ用意すると、持っていたであろうナイフを取り出した。
 綺麗に切り分けられたケーキを取り皿に分けられ、ライオスの前に供される。
「……どうぞ、今日は本当にお疲れ様でした」
「ありがとう。カブルーやヤアドのおかげで助かったよ……」
 カブルーがテーブルに着くのを待って、ライオスはフォークを手に取った。ベリーのソースが掛かっていてとても美味しそうだ。
 翼獅子の呪いによって常に小腹が空いている状態のライオスは食べすぎないように食事制限をしている。だからこれは久しぶりの甘味になる。
「そんなに見つめてないで食べて良いですよ」
「なんというか……感動して……本当にありがとう、カブルー」
 言われたままにケーキをフォークで切り分け、口に含む。ベリーの酸味とチーズケーキのほんのりとした甘さが合ってとても美味しい。久しぶりの好物に相合が崩れる。
「美味しいですか?」
「うん、すごく。誰が作ってくれたんだ?」
「実はセンシさんに。材料に魔物は使われていませんが、センシさんはお菓子を作るのも上手いんですね」
「センシが!? いつ来ていたんだろう、俺にも会いに来てくれたら良いのに」
 久しぶりの仲間の名前を聞いてテンションが上がる。同時に、自分を訪ねてくれなかったことに肩も落とす。
 するとカブルーが少し照れ臭そうにしながら「センシさんは城に来ていないですよ」と答えた。
 ならばどこで? とライオスが首を傾げると、カブルーは少し考える仕草をし、ややあって口を開いた。
「実はファリンさんやミスルンさん……転移魔術を使うエルフの人です。二人に最近センシさんを見かけなかったか聞いて、頼みに行ったんですよ」
 ちょうど近くの自然迷宮にいてくれて助かった、と言うカブルーに、ライオスはますます感動した。
 カブルーが己のためにそこまでしてくれたことが嬉しくて。こんな風に祝って貰ったのはいつぶりだろう。
 冒険者時代は誕生日どころじゃなかったし、あってもファリンにちょっとしたプレゼントを貰ったくらいだ。
 ファリンのプレゼントも嬉しかったが、カブルーからのプレゼントもとても嬉しい。ちゃんと友人と呼べる人からの初めて誕生日プレゼントだからだろうか。嬉しさからか、ライオスはワインを飲むペースを早めていった。
「ところでライオス、プレゼントも用意しているんですが」
「プレゼント? これ以上もらっても、俺はカブルーに返せるものなんてないよ」
 確かにプレゼントもあると言っていた気がするが、チーズケーキとワインだけでも十分だ。
 これ以上もらってしまったら、本当にライオスがカブルーに返せるものなんてなくなってしまう。すでにこんなにも幸せで、贅沢な時間をもらっているのに。
 けれどカブルーは首を振って、「俺が受け取って欲しいと思っているだけです」と籠の中から小さな箱を取り出した。
 目の前に差し出されたそれを手に取ると、視線で開けてほしいと促される。
 細かい細工の施された、きっとこの箱自身にも価値があるんだろうと思わせる箱を開けてみると、綺麗な青い宝石が嵌ったネックレス。
 装飾の類をつけないライオスにネックレスを送る意味を問うようにカブルーを見つめると、カブルーは真剣な表情になっていた。
「ライオス、俺はあんたが好きだ」
 面と向かって好きだと言われて、すでにワインのおかげで赤くなっていたライオスの白い肌がさらに赤く染まる。
 真剣な表情でそんなことを言われてしまえば、何か変な勘違いをしてしまいそうになる。カブルーは顔が良いから余計に。
「お、俺も好きだよ」
 それでも照れながらライオスはなんとか答えた。なんだろう、好きだと言い合うのは恥ずかしいなと思っていると、カブルーの手がライオスの手を掴んだ。
「俺の好きはあんたの好きとは違うんですよ」
 それはどういう意味だ? と思っていると、急にカブルーの顔が近づいてくる。
 ちゅっと音がして唇から少し外れた場所にキスをされて、ライオスは固まる。
「本当は唇にしたかったんですけど、我慢しました」
「唇に……」
「恋愛的な意味で好きってことですよ」
 ふ、とどこか諦めを含んだ笑顔で、カブルーはライオスの持つ箱を見た。
「それは俺の気持ちです。ずっと変わらず、あんただけに捧げます。だから、持つだけ持っておいてくれませんか?」
 身につけてくれなくていい、ただ持っていてほしい。そう呟くカブルーに、ライオスはどこか寂しくなってしまう。近くにいるのに、距離を感じてしまう。
 ライオスがカブルーに声をかけようとする前に、カブルーは自分の分の取り皿とグラスを持って立ち上がった。
「残りのケーキは全部食べてもいいですよ、今日だけは特別です。明日からはまた食事制限しますから」
「あ、うん……いや、待ってくれ、カブルー!」
「それでは、失礼します。ライオス、あなたが生まれてきてくれて本当に良かった」
 ぱたんと扉が閉じられる。残されたチーズケーキとワイン、それからネックレス。
 ライオスは再びフォークを取り、チーズケーキを口に含む。センシの作ったケーキは美味しい。けれど、なぜだかさっきよりも美味しいとは思えなかった。畳む
    

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