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カブライ / 誕生祭前日譚

 ライオスが王に名乗りあげてから七日七晩が明けた後、ヤアドに真っ先に誕生日はいつかと聞かれた時はなんだと思っていた。
 だが、誕生日が近づくにつれて城下が、城の中が祭りの準備で盛り上がっていく様子を見て、その理由を察した。
 なるほど、王の誕生日は国民にとっての祝日か。ライオスは衣装係に着せ替え人形のように衣装を取っ替え引っ替えに着せ替えられながら鏡をぼんやりと見つめていた。
 もう何着目だろう。こんなに衣装を用意するぐらいならもっと別のところに使った方がいいんじゃないか?
 衣装係はああでもない、こうでもないと嬉々として衣装を選び続けている。一体着せ替え人形はいつまで続くのだろう。そう遠い目をしていると、部屋にノックの音が響いた。
「失礼します。陛下、衣装は決まりましたか?」
「カブルー……見ての通りだよ」
 いくつも並び立つ、衣装を着たトルソーを横目にライオスはぐったりとしながら応える。そんなライオスの様子にカブルーは笑いつつ、一枚の紙を差し出した。
 少しでも着せ替え人形状態から逃れられるのならばと縋るようにその紙に手を伸ばしたが、その内容を見てまた顔を顰めた。
 誕生日当日のスケジュールがぎっしり詰まっている。国民に向けた挨拶はまぁ良い。その後の諸外国からの使者との面談の多さときたら、頭が痛くなる。しかもその後は城の広間で立食形式の食事になるらしい。
 きっとここでも挨拶だのなんだので、ライオスはまともに食事を取ることができないだろう。
 せっかくの誕生日だと言うのに、ライオスにとって楽しい一日にはならなそうだ。
 がっくりと項垂れるライオスとは対照的にカブルーはどこか楽しそうだ。それもそうだろう、彼は人と関わるのが大好きなのだから。
 自分もカブルーのような能力が欲しかったと以前二人で飲んでいた際に愚痴をこぼしたことがあるが、カブルーはそれを「あんたにはそんな能力必要ないですよ」と笑い飛ばした。
 普段あれだけ人の顔を覚えろと言うのに。矛盾していないかと問えば、「ライオスが出来るようになったら、俺はいらなくなっちゃうでしょ?」なんて返された気がする。
 そんなことはないのに。ライオスがカブルーのようにすぐに他人の顔や特徴が覚えられるようになっても、カブルーのようにうまく立ち回れる気がしない。
 だからカブルーはライオスにとって必要だ。そう述べた時のカブルーの顔は、どんな顔をしていたっけ?
「現実逃避しないで、誕生祭での立ち回りについて考えてください」
「うぅ……わかったよ」
 衣装係の者たちにこのトルソーの中から衣装を選んでくれと頼むと、ライオスは衣装部屋からカブルーと共に出た。
 ずらりと並ぶ外国の名前と、聞いたことがあるようなないような分からない人名が連なっている紙をペラペラと捲る。
「王様の誕生日って大変なんだな」
「何を他人事に言ってるんですか。あなたの誕生日ですよ」
 おかしそうに笑うカブルーにムッとする。ライオスは本当に困っていると言うのに、カブルーは相変わらず楽しげだ。
「ところで、ライオス」
 人気がない場所だからか、カブルーが畏まったように陛下と呼ぶことなくライオスの名を呼ぶ。ライオスはカブルーに名を呼ばれるのが好きだった。
 なぜかカブルーはライオスの名前を大切なものを扱うように呼ぶのだ。その響きが気持ち良い。
「そのスケジュールは一応夕方までのスケジュールなんですよ」
「それはつまり……夜は空いているってこと?」
 期待しながらカブルーに問うと、カブルーはこっくりと深く頷いた。そして悪戯な笑みを浮かべる。
 もし近くに侍女などがいたらその魅力的な笑みに腰を抜かしてしまう者もいただろう。カブルーは城内の侍女たちに人気があった。
「そして俺は王のための特別なチーズケーキと、チーズケーキにぴったり合うワインを用意してます」
 まるで内緒話でもするように語るカブルーに、ライオスの瞳に光が戻る。
「誕生日の夜は俺と二人でケーキを食べながら飲みましょう。プレゼントも用意してるんで期待しててください」
 だから頑張って覚えましょうね、と紙を指さされる。
 目の前に餌を釣り下げられたなら仕方がない。ライオスは紙に載っている貴族や氏族の名前を頭に叩き込むことにしたのだった。畳む
    

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