2024/11/24 DiD カブライ / 群青に嫌忌カブルーくんがとても酷い男です。カブ→ライ前提のカブモブからのカブライ。(匂わせ程度)カブがモブとキス程度のことはしてますがモブが非常に可哀想なので苦手な方は本当にご注意ください続きを読む 短命種の王が統治する、多種族の国家があると聞いて私はその国へ行くことにした。 そこで私は、運命の出会いをしたのだった。 戦災孤児だった私を育ててくれたのは長命種のエルフであった。育て親には申し訳ないが、まるで愛玩動物のように扱われ、生きていくにはあまりにも窮屈だった。 どこに行くにも心配だと監視の目があり、育ての親が良かれと思って渡してくるものを好きにならなければいけない。自我がないように扱われるのは苦しくて仕方がなかった。 だから成人を機に、育ての親の元を離れる事にした。育ての親は酷く嫌がったが、最終的には私が成長したのだと納得して送り出してくれた。 いろんな場所を点々として、そうして最後に辿り着いたのが最近、噂になっていたメリニだ。 沈んでいた伝説の大陸が浮上してできた国だとか、その国を治めるのは悪魔すら喰った悪食の王だとか、噂が絶えない。 どこまでが本当なのかわからないが、ここならば私も自由に生きて行けるのではないかと思いメリニに訪れた。 賑わう城下町で様々な種族が溢れているのを見て、感動してしまった。城下街には衛兵が常に街の中にを見回っているから安心して過ごせる。 とりあえず路地に空いてある家を確保して、これから生活に胸を膨らました。まずは近場の酒場に行った。どんな人が集まっているから気になってたからだ。 カランとベルを鳴らして酒場に入ると、そこにはトールマンはもちろん、コボルトやノーム、ドワーフなどが溢れていた。(すごい……) 本当にたくさんの種族が揃っている。それでいて誰もが楽しそうで、短命種長命種関係なく親しくしているのが目新しく見えた。 私はそんな人たちを横目に、カウンターの席に座った。店主が何を頼むかと言ってきたので取とりあえず食事を頼んだ。 出されてた食事はどれも美味しそうで、私は目を輝かせた。王が食事にこだわっているだけあって、どれも美味しそうだ。 早速食事に手をつけようとした時、急に隣にどかりとトールマンが座り込んだ。「お嬢さん、一人で食事かい?」 どこか軽いノリで声をかけてきた男に、なんとなく嫌な予感がする。「一緒に飲んだりしない? あっちの席で一緒に飲もうよ」 ぐい、と強引に腕を引っ張れれて困惑する。どうしようと悩んでいる、その時だった。「すみません、遅れてしまって。仕事が立て込んでて……」 突然現れた褐色肌とブルネットの巻き毛の青年が私に声をかけてきた。申し訳なさそうに私に声をかけ後、私の腕を掴んでいた男に目を向けた。その目はゾッとするほど冷たく、気圧されてしまう。 腰に剣を携えているのもあって、男はさっさと逃げていった。 助かった、と思っていると、助けてくれた青年は私の隣に座った。「すみません。お節介でしたか?」「あっ、いいえ、助かりました……」 改めて青年を見ると、端正な顔立ちに驚いてしまった。こんな人に助けてもらえたなんて、なんてラッキーなんだろうと思う。胸がどきどきと高鳴った。「どうぞ、お食事の続きを。店主さん、僕にはいつものやつをお願いします」 どうやら常連らしく、それだけ言うと店主はすぐに青年の前に木製のカップが出された。 カップに口をつける仕草も綺麗で、私は思わずぼんやりと見惚れてしまった。私の視線に気づいたのか、彼はウィンクした。随分それが似合っていて、慣れているなと思う仕草。 思わず視線を逸らして誤魔化す。フォークを持ってぱくぱくと食事に集中し、隣の彼に気取られないように気をつける。しかし、私の努力も虚しく隣に座った彼はにこやかに話しかけてきた。「もしかして、移住してきた方ですか?」「は、はひ……んぐ、どうしてわかったんですか?」 素直すぎる私の回答に、彼はくすりと笑った。笑われて、顔が熱くなる。「僕はこれでも顔が広いんですが、あなたのことは知らなかったので。もしかしてそうなんじゃないかなと思っただけですよ」 赤くなっているであろう顔を見られたくなくて、必死に食事に視線を落としていた私をフォローするように、彼は言ってくれた。 ちらりと彼を見ると、群青の瞳が弧を描いて私を見つめていた。どこか楽しげで、なんとなく嬉しそうで。ますます顔が熱くなった私は、店長に問いかけた。「この人が顔が広いって本当ですか?」「うん? ああ、ここいらじゃ一番顔が広いのは間違いなくそいつだよ。すげぇぞそいつ、一度会っただけの相手の顔も名前も一発で覚えちまう」 酒場の店主が言うのなら本当にそうなんだ……と感心して、そっと横目で彼を見る。 確かにこれだけ顔が良くて、咄嗟に人助けもしてくれる人のことを嫌いになることなんてあるのだろうか。 彼は店主の言葉に「それは言い過ぎですよ」と謙遜しつつ、またカップに口付けた。それから私の方を向いて。「そういえばお名前をお聞きしても?」「え、あ、私の名前はその、ライラです」「ライラ……良いお名前ですね」 うっそりと微笑む彼はどこか艶っぽかった。そうやって彼に見つめられると食事が進まなくて、行儀悪くフォークでトマトを転がす。 彼はことりと音を立ててカップを置くと、スマートに立ち上がった。カウンターに銀貨をいくつか置き、また私の方を見て、今度はにっこりと幼なげな笑顔を向ける。「僕の名前はブラウです。以後よろしくお願いします」 そう言うと彼……ブラウさんは酒場を後にする。私はブラウさんの後ろ姿を、ただただ見つめていた。 ――その後ろで、酒場の店主が苦い顔をしていた事に、気づくことができなかった。 それから度々ブラウさんと会うことが会った。市場で買い物をしている時、ブラウさんと初めて会った酒場で食事をしている時、評判な薬屋で会うこともあった。 そうやって何度も会っていくうちに、だんだん私がブラウさんに惹かれているのを自覚する。人当たりの良さ、気をつけてみなければ気付けないような優しさ、そしてたまに見せる、どこか愛おしいものを見るような目。そんな目で見られてしまえば、私はぐずぐずに溶けたチョコレートのようになって、立っているのもやっとだ。 その日もたまたま市場で出会った時だった。「それ、癖なんですか?」「え?」 指摘されたのは、私が肩まで伸ばしている髪の先を、指でくるくると巻いていた時のことだった。どこにでもいるようなくすんだ薄茶色の髪はちょっとしたコンプレックスで、ついつい指でいじってしまう癖がある。 育ての親はとても可愛いよと言ってくれたが、私はもっと、綺麗な色の髪が良かった。育て親が綺麗な白銀の髪で、とても羨ましかったから。 その事を素直に告げると、ブラウさんは「そんなことありませんよ」と真剣な眼差しで見つめられる。「僕はあなたのその、実った麦の穂のような色の髪が好きですよ。光に助けるとまるで輝くような美しさを持っている」 髪を絡める指に、ブラウさんの指が加わる。愛しそうに撫でられて、私の心臓はもう爆発するかと思った。顔が近い。そっと髪を一房取られて、ちゅ、と可愛い音を立ててそこに口付けられた。 私はもう限界で、一杯一杯で、ブラウさんに胸を押し返そうとした。けれど彼の力は思ったよりも強く、離れてくれなかった。「や、やめてください。こんなの、誤解しちゃう……」「誤解じゃない、と言ったら?」 え、と顔を上げると、間近に迫ったブラウさんの顔がそこにある。ひゅっと息を呑んだ。「あなたの気持ちを教えてください」「わ、私は……その……ブラウさんのことが――好きです……っ」 言ってしまった。口から出した言葉はもう戻らない。私はぎゅっと目を閉じて、ブラウさんからの返事を待つ。 すると、唇に柔らかい感触が触れたのだ。驚いて目を開くと、ブラウさんの群青の瞳と目が合った。その目は優しそうに細められていて。唇に触れているのがブラウさんの唇だと思うと、頭が真っ白になってしまいそうだった。「――ありがとうございます。大切にします」 唇から感触が離れていくと、ぎゅっと抱きしめられた。髪に顔を埋められてすぅと息を吸われる。恥ずかしくてたまらなくなったが、それ以上に嬉しさが込み上げてくる。恐る恐るブラウさんの背中に手を回し、抱きついた。 ――だからその時は気づかなかった。ブラウさんが、ただ感謝を述べて、私のことを好きだと言ったわけではなかったことに。 それからはブラウは路地にある私の家に訪ねて来るようになった。ブラウは私の髪が本当に好きなようで、よく頭を撫でられたり、髪を梳かれたり。その度に私は真っ赤になったが、ブラウはくすくすと笑うばかり。たまに口付けを交わして、ブラウは私の目尻をなぞった。「知っていますか? 俺の瞳の色とライラの瞳の色は反対色になるそうですよ」 白い肌、光がさすとまるで金色に輝く髪、そして瞳の色。まるで僕たちは対になっているるようだ。歌うように言うブラウは、よほど私の容姿を気に入っているらしく、このように何度も褒めてくれる。 それが嬉しくて、そして対になっていると言われ、それが運命のように感じて。私は嬉しくて仕方がなかった。 ブラウはなんの仕事をしているのかわからないけれど、時間を見つけては私に会いに来てくれていると言う。もっと会いたいと思うが、たまに目の下に隈を作っているところを見るときっと大変な仕事をしているのだろう。 だから、そう言うのは……結婚してから、なんて思っていた。たまにブラウと街を回っている時に指輪を見かけると、どきりとしてしまう。いつか私たちも揃いの指輪をつける時が来るのかな、なんて考えて、一人でベッドで悶えることもある。 ある日、お気に入りの薬屋に行くと、そこのあまり愛想のよくない店主が私を見つめていたことに気づいた。 なんだろうと思っていると、店主は私に近づいてきて、「あなた」と一言声をかけた。 店員と客としてしか接したことがなかったから、こうして話しかけられることに驚いたけれど、私は「なんですか?」と答える。「あいつ……カ……ブラウ? と付き合ってるの?」 訝しげに聞いてくる店主に、私はもしかして、と思った。彼女はブラウのことを好きなのかもしれない、と。「もし付き合ってるならやめておきなさい。……痛い目を見る前に」 やはりそうだ、と私は確信した。ここの店主とブラウは親しそうにしていたし、彼女はきっとブラウのことが好きなのだ。 だからそんな酷いことを言ってくるのだろう。私は毅然として、「そんなこと、あなたには関係ありません」と答えた。 店主はなんとも言いづらそうな表情になり、続ける。「本当に、辛い目に遭うのはあなたなのよ。私はただ、真実を告げているだけ」「辛い目になんて遭うわけないじゃないですか。あなたはブラウのことが好きなのかもしれないけど、彼の恋人は私です!」 言い切ると、店主は驚いた顔をして目を瞠っていた。私は手に持っていた石鹸などを棚に戻すと、急いで店から飛び出した。 心臓がドキドキと鳴っている。こんなにはっきりとブラウが私の恋人であると言ったことはなかったから、緊張してしまった。それにしても、なんて意地悪な店主なんだろう。 横恋慕してくるだけならまだしも――実際はそれも嫌だけど――、口に出してくるなんて。 何が辛い目に遭う、だ。辛い目に遭っているのは彼女の方だ。片想いしているブラウと付き合っているのは、私なんだから。私からブラウを取り上げたかったんだろう。 そうは行くもんか、と私は鼻息を荒くして家路へと急いだ。もしかしたらブラウが来ているかもしれない。 せっかく気に入ってのに、もうあの店には行けないな、と残念に思いながら、足を早める。 ――この時、彼女の忠告を真剣に聞くべきだったと知るのは、それからすぐのことだった。 土砂降りの雨が降っていた日のことだった。突然、玄関から扉を開く音が響いて、何事かと思うと濡れ鼠になったブラウがそこに立っていた。 彼はどこかぼんやりとしていて、浮ついているようだった。どうしたの? とタオルを持って近づくとブラウは目をきらきらさせて、壮絶に美しい笑みを浮かべていた。「ライラ……ああ、ライラ!」 感極まったように私の名を呼ぶブラウ。どうしたのだろうかと心配になった。こんな雨の中、私に会いにくるなんて、仕事で何かあったのか? それにしては、ブラウは歓喜に満ちているようだった。「大切なことを伝えに来ました」 大切なこと、という言葉に、私はどきりとする。大切なこと、なんだろう。もしかして、こんな雨の中なのに急いで来たのは。期待に胸が膨らむ。 そんな私を、ブラウは輝かんばかりの顔で。 絶望へと突き落とした。「お別れを言いに来ました」「……えっ?」 ブラウが何を言っているのかわからなかった。お別れ? なぜ? 私たち、あんなに上手くいっていたのに? 動揺してしまい、私はタオルを投げ出して、ブラウが濡れていることも構わずに彼の肩を掴んだ。「どうしたの? 急に……お別れなんて、冗談だよね?」 へらり、と下手くそな笑顔を作って、先ほどのブラウの言葉を否定する。けれど、それでもブラウは残酷で。「冗談ではありません。もう今後一切、あなたに会いにくることはありません」 輝かんばかりの笑顔でそう言い切った。そうしてもう用は済んだとばかりに私の手を振り払い、家から出て行こうとする。「待って! 待ってよブラウ!」 私の声は届かず、ブラウは家から出て行った。 私も土砂降りの雨の中であるのも構わず、家から飛び出てブラウの後ろ姿を探す。しかし、どこを見てもブラウの後ろ姿は見えない。「ブラウ! ブラウ!!」 必死に名前を叫んでも返事はない。私が声が枯れるまでブラウの名前を呼んだ。 それから数日、雨の中で立ち尽くしていたせいか私は高熱で倒れてしまった。ブラウが私の家に来る気配はない。もう死んでしまいたいと思ったけれど、なぜか医者が家に来てくれて私の治療をしてくれ、気がつけば熱も下がっていた。 どうして医者が私の家を訪ねたのかわからなかったが、私は熱に苦しんで死ぬこともできず。かといっていろんな人にブラウのことを尋ねても誰も答えてくれなかった。 酒場の店主も、薬屋の店主も、苦々しい顔でブラウなんて男は知らないというのだ。 そんなことが嘘であることぐらい、私にもわかる。どれだけ縋り付いて見せても、彼は、彼女は答えてくれなかった。 そんな折。メリニの建国記念日ということで街中がお祭り状態になった。 メリニの建国記念日ではたくさんの食料が提供され、あの悪食と名高い王が直々に挨拶するという。 私はお祭り気分ではなかったけれど、私のことを心配してくれた近所の人が誘ってくれた。その人はなんでも王の知り合いらしく、挨拶も前の列の方で見れることになった。 そこで、私は衝撃を受ける。 日が頭の真上まで昇り、そろそろ祭りが始まるという時に、壇上に一人の男が現れた。獣のようなマントを纏い、どこか冷たい印象を持たせる顔の整ったトールマン。彼が噂の、と思っていた時だった。「陛下!」「国王陛下!」「ライオス陛下!」 どっと周りが湧き上がる。かなりの人望だ。そういえば世界を救ったとか言ってたっけ、と思い出す。 この盛り上がり方だと、あながちただの噂ではなく、本当のことだったのかもしれないと私に思わせ るには十分だ。 そんなすごい人が目の前にいる。日に照ってきらきら黄金のように輝く短い髪。北方の出自なのだろうか、日焼けとは無縁そうな白い肌。そして琥珀のような瞳。……あれ? と私が違和感を覚えかけた時だった。「長い演説でせっかくの飯を冷ますのは勿体無い。みんな、楽しく腹いっぱい食べてくれ!」 それだけ言うと、王はさっさと壇上を降りようとした。周囲はすぐに散り散りに料理を取りに行く。せっかくの建国記念日なのにそんな挨拶でいいのかと、王の背中を目で追っていたら。 ブラウの姿がそこにあった。「ブラウ!」 私は気がついたらブラウの元へと駆け出していた。 ようやく会えた、どうしてそんなところに? と私の中は、とにかくブラウのことでいっぱいだった。 しかし、足を進めようとしたところで衛兵に止められる。ブラウは王の隣にいて、私はそんな王に近づこうとした不届きものに見えたのかもしれない。しかし違うのだ。私は、王の隣にいる青年を呼びたいだけなのだ。「ブラウ! ねぇ、ブラウってば! どうして私の家に来てくれなくなったの?! お願い、ブラウ! 返事をして!」 ブラウに向かって必死に喚く私に、反応したのは王の方だった。「ブラウ……カブルー? 彼女は君の知り合いかい?」 聞いたことのない名前。それに対して、カブルーと呼ばれた青年は、いいえとばかりに首を横に振った。「知らない方です。ライオスも知らなくていい方ですよ」「そうなのか? まあ君がそう言うのなら、そうなんだろう」 王とブラウが親しげに会話している。今すぐ割って入りたかったが、ブラウが私のことを知らないと言ったことにショックを受けた。 立ち去ろうとする王の腰にそっと腕を回すブラウ。彼は私のことなんか目に入っていないとでも言うように、王に向かって何か話しかけた。それに対して、王は優しく微笑んで答える。その時に見たブラウの表情は、あの雨の日に見た時と同じ、壮絶に美しい笑顔を浮かべていた。 酒場の店主から話を聞いた。彼の名前はブラウではなく、カブルーと言って今は宰相補佐をやっている。 実をつけた麦の穂のように輝く髪。日焼けを知らない白い肌。琥珀の瞳。どれも私と同じもの。それを王が持っていた。確か名前はライオスだったか。ああ、響きもなんとなく似ている。 彼が求めていたのは私ではない。王だったのだ。私はただの代わりだった。 私はメリニを出て、育ての親のもとへと帰ることにした。こんな痛みを知るために外の世界に出たわけではない。 ああ、外の世界は怖いのだと言っていた育て親の言葉は正しかった。 私は群青色の空を憎らしく見上げ、そして地面へと視線を落とした。畳む
カブルーくんがとても酷い男です。カブ→ライ前提のカブモブからのカブライ。(匂わせ程度)
カブがモブとキス程度のことはしてますがモブが非常に可哀想なので苦手な方は本当にご注意ください
短命種の王が統治する、多種族の国家があると聞いて私はその国へ行くことにした。
そこで私は、運命の出会いをしたのだった。
戦災孤児だった私を育ててくれたのは長命種のエルフであった。育て親には申し訳ないが、まるで愛玩動物のように扱われ、生きていくにはあまりにも窮屈だった。
どこに行くにも心配だと監視の目があり、育ての親が良かれと思って渡してくるものを好きにならなければいけない。自我がないように扱われるのは苦しくて仕方がなかった。
だから成人を機に、育ての親の元を離れる事にした。育ての親は酷く嫌がったが、最終的には私が成長したのだと納得して送り出してくれた。
いろんな場所を点々として、そうして最後に辿り着いたのが最近、噂になっていたメリニだ。
沈んでいた伝説の大陸が浮上してできた国だとか、その国を治めるのは悪魔すら喰った悪食の王だとか、噂が絶えない。
どこまでが本当なのかわからないが、ここならば私も自由に生きて行けるのではないかと思いメリニに訪れた。
賑わう城下町で様々な種族が溢れているのを見て、感動してしまった。城下街には衛兵が常に街の中にを見回っているから安心して過ごせる。
とりあえず路地に空いてある家を確保して、これから生活に胸を膨らました。まずは近場の酒場に行った。どんな人が集まっているから気になってたからだ。
カランとベルを鳴らして酒場に入ると、そこにはトールマンはもちろん、コボルトやノーム、ドワーフなどが溢れていた。
(すごい……)
本当にたくさんの種族が揃っている。それでいて誰もが楽しそうで、短命種長命種関係なく親しくしているのが目新しく見えた。
私はそんな人たちを横目に、カウンターの席に座った。店主が何を頼むかと言ってきたので取とりあえず食事を頼んだ。
出されてた食事はどれも美味しそうで、私は目を輝かせた。王が食事にこだわっているだけあって、どれも美味しそうだ。
早速食事に手をつけようとした時、急に隣にどかりとトールマンが座り込んだ。
「お嬢さん、一人で食事かい?」
どこか軽いノリで声をかけてきた男に、なんとなく嫌な予感がする。
「一緒に飲んだりしない? あっちの席で一緒に飲もうよ」
ぐい、と強引に腕を引っ張れれて困惑する。どうしようと悩んでいる、その時だった。
「すみません、遅れてしまって。仕事が立て込んでて……」
突然現れた褐色肌とブルネットの巻き毛の青年が私に声をかけてきた。申し訳なさそうに私に声をかけ後、私の腕を掴んでいた男に目を向けた。その目はゾッとするほど冷たく、気圧されてしまう。
腰に剣を携えているのもあって、男はさっさと逃げていった。
助かった、と思っていると、助けてくれた青年は私の隣に座った。
「すみません。お節介でしたか?」
「あっ、いいえ、助かりました……」
改めて青年を見ると、端正な顔立ちに驚いてしまった。こんな人に助けてもらえたなんて、なんてラッキーなんだろうと思う。胸がどきどきと高鳴った。
「どうぞ、お食事の続きを。店主さん、僕にはいつものやつをお願いします」
どうやら常連らしく、それだけ言うと店主はすぐに青年の前に木製のカップが出された。
カップに口をつける仕草も綺麗で、私は思わずぼんやりと見惚れてしまった。私の視線に気づいたのか、彼はウィンクした。随分それが似合っていて、慣れているなと思う仕草。
思わず視線を逸らして誤魔化す。フォークを持ってぱくぱくと食事に集中し、隣の彼に気取られないように気をつける。しかし、私の努力も虚しく隣に座った彼はにこやかに話しかけてきた。
「もしかして、移住してきた方ですか?」
「は、はひ……んぐ、どうしてわかったんですか?」
素直すぎる私の回答に、彼はくすりと笑った。笑われて、顔が熱くなる。
「僕はこれでも顔が広いんですが、あなたのことは知らなかったので。もしかしてそうなんじゃないかなと思っただけですよ」
赤くなっているであろう顔を見られたくなくて、必死に食事に視線を落としていた私をフォローするように、彼は言ってくれた。
ちらりと彼を見ると、群青の瞳が弧を描いて私を見つめていた。どこか楽しげで、なんとなく嬉しそうで。ますます顔が熱くなった私は、店長に問いかけた。
「この人が顔が広いって本当ですか?」
「うん? ああ、ここいらじゃ一番顔が広いのは間違いなくそいつだよ。すげぇぞそいつ、一度会っただけの相手の顔も名前も一発で覚えちまう」
酒場の店主が言うのなら本当にそうなんだ……と感心して、そっと横目で彼を見る。
確かにこれだけ顔が良くて、咄嗟に人助けもしてくれる人のことを嫌いになることなんてあるのだろうか。
彼は店主の言葉に「それは言い過ぎですよ」と謙遜しつつ、またカップに口付けた。それから私の方を向いて。
「そういえばお名前をお聞きしても?」
「え、あ、私の名前はその、ライラです」
「ライラ……良いお名前ですね」
うっそりと微笑む彼はどこか艶っぽかった。そうやって彼に見つめられると食事が進まなくて、行儀悪くフォークでトマトを転がす。
彼はことりと音を立ててカップを置くと、スマートに立ち上がった。カウンターに銀貨をいくつか置き、また私の方を見て、今度はにっこりと幼なげな笑顔を向ける。
「僕の名前はブラウです。以後よろしくお願いします」
そう言うと彼……ブラウさんは酒場を後にする。私はブラウさんの後ろ姿を、ただただ見つめていた。
――その後ろで、酒場の店主が苦い顔をしていた事に、気づくことができなかった。
それから度々ブラウさんと会うことが会った。市場で買い物をしている時、ブラウさんと初めて会った酒場で食事をしている時、評判な薬屋で会うこともあった。
そうやって何度も会っていくうちに、だんだん私がブラウさんに惹かれているのを自覚する。人当たりの良さ、気をつけてみなければ気付けないような優しさ、そしてたまに見せる、どこか愛おしいものを見るような目。そんな目で見られてしまえば、私はぐずぐずに溶けたチョコレートのようになって、立っているのもやっとだ。
その日もたまたま市場で出会った時だった。
「それ、癖なんですか?」
「え?」
指摘されたのは、私が肩まで伸ばしている髪の先を、指でくるくると巻いていた時のことだった。どこにでもいるようなくすんだ薄茶色の髪はちょっとしたコンプレックスで、ついつい指でいじってしまう癖がある。
育ての親はとても可愛いよと言ってくれたが、私はもっと、綺麗な色の髪が良かった。育て親が綺麗な白銀の髪で、とても羨ましかったから。
その事を素直に告げると、ブラウさんは「そんなことありませんよ」と真剣な眼差しで見つめられる。
「僕はあなたのその、実った麦の穂のような色の髪が好きですよ。光に助けるとまるで輝くような美しさを持っている」
髪を絡める指に、ブラウさんの指が加わる。愛しそうに撫でられて、私の心臓はもう爆発するかと思った。顔が近い。そっと髪を一房取られて、ちゅ、と可愛い音を立ててそこに口付けられた。
私はもう限界で、一杯一杯で、ブラウさんに胸を押し返そうとした。けれど彼の力は思ったよりも強く、離れてくれなかった。
「や、やめてください。こんなの、誤解しちゃう……」
「誤解じゃない、と言ったら?」
え、と顔を上げると、間近に迫ったブラウさんの顔がそこにある。ひゅっと息を呑んだ。
「あなたの気持ちを教えてください」
「わ、私は……その……ブラウさんのことが――好きです……っ」
言ってしまった。口から出した言葉はもう戻らない。私はぎゅっと目を閉じて、ブラウさんからの返事を待つ。
すると、唇に柔らかい感触が触れたのだ。驚いて目を開くと、ブラウさんの群青の瞳と目が合った。その目は優しそうに細められていて。唇に触れているのがブラウさんの唇だと思うと、頭が真っ白になってしまいそうだった。
「――ありがとうございます。大切にします」
唇から感触が離れていくと、ぎゅっと抱きしめられた。髪に顔を埋められてすぅと息を吸われる。恥ずかしくてたまらなくなったが、それ以上に嬉しさが込み上げてくる。恐る恐るブラウさんの背中に手を回し、抱きついた。
――だからその時は気づかなかった。ブラウさんが、ただ感謝を述べて、私のことを好きだと言ったわけではなかったことに。
それからはブラウは路地にある私の家に訪ねて来るようになった。ブラウは私の髪が本当に好きなようで、よく頭を撫でられたり、髪を梳かれたり。その度に私は真っ赤になったが、ブラウはくすくすと笑うばかり。たまに口付けを交わして、ブラウは私の目尻をなぞった。
「知っていますか? 俺の瞳の色とライラの瞳の色は反対色になるそうですよ」
白い肌、光がさすとまるで金色に輝く髪、そして瞳の色。まるで僕たちは対になっているるようだ。歌うように言うブラウは、よほど私の容姿を気に入っているらしく、このように何度も褒めてくれる。
それが嬉しくて、そして対になっていると言われ、それが運命のように感じて。私は嬉しくて仕方がなかった。
ブラウはなんの仕事をしているのかわからないけれど、時間を見つけては私に会いに来てくれていると言う。もっと会いたいと思うが、たまに目の下に隈を作っているところを見るときっと大変な仕事をしているのだろう。
だから、そう言うのは……結婚してから、なんて思っていた。たまにブラウと街を回っている時に指輪を見かけると、どきりとしてしまう。いつか私たちも揃いの指輪をつける時が来るのかな、なんて考えて、一人でベッドで悶えることもある。
ある日、お気に入りの薬屋に行くと、そこのあまり愛想のよくない店主が私を見つめていたことに気づいた。
なんだろうと思っていると、店主は私に近づいてきて、「あなた」と一言声をかけた。
店員と客としてしか接したことがなかったから、こうして話しかけられることに驚いたけれど、私は「なんですか?」と答える。
「あいつ……カ……ブラウ? と付き合ってるの?」
訝しげに聞いてくる店主に、私はもしかして、と思った。彼女はブラウのことを好きなのかもしれない、と。
「もし付き合ってるならやめておきなさい。……痛い目を見る前に」
やはりそうだ、と私は確信した。ここの店主とブラウは親しそうにしていたし、彼女はきっとブラウのことが好きなのだ。
だからそんな酷いことを言ってくるのだろう。私は毅然として、「そんなこと、あなたには関係ありません」と答えた。
店主はなんとも言いづらそうな表情になり、続ける。
「本当に、辛い目に遭うのはあなたなのよ。私はただ、真実を告げているだけ」
「辛い目になんて遭うわけないじゃないですか。あなたはブラウのことが好きなのかもしれないけど、彼の恋人は私です!」
言い切ると、店主は驚いた顔をして目を瞠っていた。私は手に持っていた石鹸などを棚に戻すと、急いで店から飛び出した。
心臓がドキドキと鳴っている。こんなにはっきりとブラウが私の恋人であると言ったことはなかったから、緊張してしまった。それにしても、なんて意地悪な店主なんだろう。
横恋慕してくるだけならまだしも――実際はそれも嫌だけど――、口に出してくるなんて。
何が辛い目に遭う、だ。辛い目に遭っているのは彼女の方だ。片想いしているブラウと付き合っているのは、私なんだから。私からブラウを取り上げたかったんだろう。
そうは行くもんか、と私は鼻息を荒くして家路へと急いだ。もしかしたらブラウが来ているかもしれない。
せっかく気に入ってのに、もうあの店には行けないな、と残念に思いながら、足を早める。
――この時、彼女の忠告を真剣に聞くべきだったと知るのは、それからすぐのことだった。
土砂降りの雨が降っていた日のことだった。突然、玄関から扉を開く音が響いて、何事かと思うと濡れ鼠になったブラウがそこに立っていた。
彼はどこかぼんやりとしていて、浮ついているようだった。どうしたの? とタオルを持って近づくとブラウは目をきらきらさせて、壮絶に美しい笑みを浮かべていた。
「ライラ……ああ、ライラ!」
感極まったように私の名を呼ぶブラウ。どうしたのだろうかと心配になった。こんな雨の中、私に会いにくるなんて、仕事で何かあったのか? それにしては、ブラウは歓喜に満ちているようだった。
「大切なことを伝えに来ました」
大切なこと、という言葉に、私はどきりとする。大切なこと、なんだろう。もしかして、こんな雨の中なのに急いで来たのは。期待に胸が膨らむ。
そんな私を、ブラウは輝かんばかりの顔で。
絶望へと突き落とした。
「お別れを言いに来ました」
「……えっ?」
ブラウが何を言っているのかわからなかった。お別れ? なぜ? 私たち、あんなに上手くいっていたのに?
動揺してしまい、私はタオルを投げ出して、ブラウが濡れていることも構わずに彼の肩を掴んだ。
「どうしたの? 急に……お別れなんて、冗談だよね?」
へらり、と下手くそな笑顔を作って、先ほどのブラウの言葉を否定する。けれど、それでもブラウは残酷で。
「冗談ではありません。もう今後一切、あなたに会いにくることはありません」
輝かんばかりの笑顔でそう言い切った。そうしてもう用は済んだとばかりに私の手を振り払い、家から出て行こうとする。
「待って! 待ってよブラウ!」
私の声は届かず、ブラウは家から出て行った。
私も土砂降りの雨の中であるのも構わず、家から飛び出てブラウの後ろ姿を探す。しかし、どこを見てもブラウの後ろ姿は見えない。
「ブラウ! ブラウ!!」
必死に名前を叫んでも返事はない。私が声が枯れるまでブラウの名前を呼んだ。
それから数日、雨の中で立ち尽くしていたせいか私は高熱で倒れてしまった。ブラウが私の家に来る気配はない。もう死んでしまいたいと思ったけれど、なぜか医者が家に来てくれて私の治療をしてくれ、気がつけば熱も下がっていた。
どうして医者が私の家を訪ねたのかわからなかったが、私は熱に苦しんで死ぬこともできず。かといっていろんな人にブラウのことを尋ねても誰も答えてくれなかった。
酒場の店主も、薬屋の店主も、苦々しい顔でブラウなんて男は知らないというのだ。
そんなことが嘘であることぐらい、私にもわかる。どれだけ縋り付いて見せても、彼は、彼女は答えてくれなかった。
そんな折。メリニの建国記念日ということで街中がお祭り状態になった。
メリニの建国記念日ではたくさんの食料が提供され、あの悪食と名高い王が直々に挨拶するという。
私はお祭り気分ではなかったけれど、私のことを心配してくれた近所の人が誘ってくれた。その人はなんでも王の知り合いらしく、挨拶も前の列の方で見れることになった。
そこで、私は衝撃を受ける。
日が頭の真上まで昇り、そろそろ祭りが始まるという時に、壇上に一人の男が現れた。獣のようなマントを纏い、どこか冷たい印象を持たせる顔の整ったトールマン。彼が噂の、と思っていた時だった。
「陛下!」
「国王陛下!」
「ライオス陛下!」
どっと周りが湧き上がる。かなりの人望だ。そういえば世界を救ったとか言ってたっけ、と思い出す。
この盛り上がり方だと、あながちただの噂ではなく、本当のことだったのかもしれないと私に思わせ るには十分だ。
そんなすごい人が目の前にいる。日に照ってきらきら黄金のように輝く短い髪。北方の出自なのだろうか、日焼けとは無縁そうな白い肌。そして琥珀のような瞳。……あれ? と私が違和感を覚えかけた時だった。
「長い演説でせっかくの飯を冷ますのは勿体無い。みんな、楽しく腹いっぱい食べてくれ!」
それだけ言うと、王はさっさと壇上を降りようとした。周囲はすぐに散り散りに料理を取りに行く。せっかくの建国記念日なのにそんな挨拶でいいのかと、王の背中を目で追っていたら。
ブラウの姿がそこにあった。
「ブラウ!」
私は気がついたらブラウの元へと駆け出していた。
ようやく会えた、どうしてそんなところに? と私の中は、とにかくブラウのことでいっぱいだった。
しかし、足を進めようとしたところで衛兵に止められる。ブラウは王の隣にいて、私はそんな王に近づこうとした不届きものに見えたのかもしれない。しかし違うのだ。私は、王の隣にいる青年を呼びたいだけなのだ。
「ブラウ! ねぇ、ブラウってば! どうして私の家に来てくれなくなったの?! お願い、ブラウ! 返事をして!」
ブラウに向かって必死に喚く私に、反応したのは王の方だった。
「ブラウ……カブルー? 彼女は君の知り合いかい?」
聞いたことのない名前。それに対して、カブルーと呼ばれた青年は、いいえとばかりに首を横に振った。
「知らない方です。ライオスも知らなくていい方ですよ」
「そうなのか? まあ君がそう言うのなら、そうなんだろう」
王とブラウが親しげに会話している。今すぐ割って入りたかったが、ブラウが私のことを知らないと言ったことにショックを受けた。
立ち去ろうとする王の腰にそっと腕を回すブラウ。彼は私のことなんか目に入っていないとでも言うように、王に向かって何か話しかけた。それに対して、王は優しく微笑んで答える。その時に見たブラウの表情は、あの雨の日に見た時と同じ、壮絶に美しい笑顔を浮かべていた。
酒場の店主から話を聞いた。彼の名前はブラウではなく、カブルーと言って今は宰相補佐をやっている。
実をつけた麦の穂のように輝く髪。日焼けを知らない白い肌。琥珀の瞳。どれも私と同じもの。それを王が持っていた。確か名前はライオスだったか。ああ、響きもなんとなく似ている。
彼が求めていたのは私ではない。王だったのだ。私はただの代わりだった。
私はメリニを出て、育ての親のもとへと帰ることにした。こんな痛みを知るために外の世界に出たわけではない。
ああ、外の世界は怖いのだと言っていた育て親の言葉は正しかった。
私は群青色の空を憎らしく見上げ、そして地面へと視線を落とした。畳む