2024/11/24 twst フロカリ / 首筋続きを読む その褐色の肌に噛みつきたいと思った。 夕日が差す教室で、一人の青年が腕を枕にしてうつ伏せに眠っていた。 真珠のように美しい色の髪と、褐色の肌。今は見えないが、閉じられた瞼の下には宝石よりも美しい赤い瞳がある。 そんな青年――カリム・アルアジームの隣に、もう一人、男がいた。 ターコイズブルーの髪に、異なる色合いの双眸。カリムとは正反対の白い肌の男はフロイド・リーチと言う。 フロイドがカリムを見つけたのはたまたまだった。 授業がすべて終わり、部活へと行く気になれなかった彼は、寮へと戻ろうとしていた途中で教室にノートを忘れていたことを思い出した。 別に取りに行くのは明日にしても良かったが、なんとなく取りに戻る気分になったフロイドが教室の扉を開いたら、気持ち良さそうに眠っているカリムを見つけたのだ。 カリムは気分屋のフロイドにしては珍しく気に入っている人間の一人だ。 最初は起こしてやろうと近づいたのだが、不意に目に入った、白いカーディガンから覗くカリムの項を見たとき、フロイドはカリムを起こすのをやめた。 無防備に眠るカリムの首筋を見て、なぜかそこに噛みつきたいと思ってしまったからだ。 別に噛み付いて、噛みちぎってやりたいというわけではない。甘く噛んで痕を残したいと思ったのだ。 なぜ突然そんなことを思ったのか、フロイド自身にもわからない。とかく、カリムを起こそうという気がなくなってしまったのだ。 そうして、じっと眠るカリムを見つめている。何度か手が眠るカリムの首筋に伸びたが、そのたびにフロイドは伸ばしかけた手を引っ込めた。 どうして噛みつきたいなどと思ってしまったのだろうと考える。別に空腹なわけではないし、人間なんて食べても美味しくないだろう。 特にカリムはその生まれ故に数年前まで毒を頻繁に盛られていたらしく、もしも食べてみたところで食あたりでも起こしそうだ。 勝手にそんな品定めをされているとは思ってもいない……そもそもフロイドの存在に気づかずに眠ったままのカリムは、静かに呼吸に合わせて肩を上下させる。 起きる気配は今のところない。フロイドがこのままカリムを放って行ったら夜になっても目が覚めなさそうな程、深く眠っている。 そういえば、とフロイドは思考する。こうしてカリムと二人でいるのに、こんなに静かなのは珍しい。 起きているときのカリムはいつだって元気いっぱいで、フロイドと一緒にいれば歌ったり踊ったりと、とにかく明るく笑顔が絶えない。 こうしてただ二人で並んでいるだけ、というのは一切なかった。そもそもカリムは眠っているのだから、当然のことなのだけれど。 眠るカリムはあまりにも静かだった。上下する肩を見なければ本当に眠っているのか疑ってしまうほどに静かだ。「……ラッコちゃん」 フロイドは自分がつけたあだ名でカリムを呼ぶ。その声は眠る人間を起こす気がないと分かるほど小さく、当然カリムからの返事はない。「ラッコちゃん」 今度は先程よりも大きな声で呼んだ。それでも眠っている人間を起こす程の音ではない。この程度では反応がないのはわかっているのに、なぜかフロイドは少しだけ苛立った。 起こす気がないのに、眠る人間の反応がないことに苛立つなんてあまりにも理不尽だ。それくらいわかっていたが、それでもなぜかフロイドは腹の奥がもやもやするような気持ちになった。「ラッコちゃん」 いつも彼を呼ぶときと同じ声で呼ぶ。浅い眠りだったらカリムは起きていたかもしれないが、あいにくと彼は深く深く眠っている。だから当然返事はない。――そのはずだった。「……ん……フロイド……」 名を呼ばれてフロイドは驚く。カリムはいまだ眠ったままだ。先程のは寝言だったのだろう。 それなのにバクバクとフロイドの心臓は早鐘を打ちだして、耳元のすぐそばで心臓が鳴っているように鼓動が聞こえた。 ……なんだこれ、なんだ、これは。 胸元を抑えて、頭の中が真っ白になる。落ち着けと自身に言い聞かせるが、それでも心臓がどくんどくんと血を送る音が体中に響く。 ふと、カリムから反らしていた視線をまたカリムへと戻したとき。褐色の首筋が、再びフロイドの目の映った。「んん……?」「あは、ラッコちゃん起きた〜?」 周囲がすっかりと暗くなったとき。漸くカリムは目を覚ました。 ここがどこかわからないのか、まだ意識がはっきりしてないのか。ぼんやりとした瞳でカリムはフロイドを見つめる。 何度かぱちぱちと瞬きをすると、カリムの瞳に光が戻る。「あれ……フロイド……? なんでここにいるんだ?」「ラッコちゃん、ここが教室だってわかって言ってる?」「え?」 自室だと勘違いしているらしいカリムに、ここがどこだか教えてやる。カリムはきょろきょろと周囲を見渡して、教室で寝ていたことにやっと気づいたらしく、慌てた。その様子にフロイドは声を上げて笑った。「ふ、フロイド! なんで起こしてくれなかったんだ?!」「んー? だってラッコちゃん、気持ちよさそ―に寝てたから」「そうなのか? そんなの、気にしなくて良かったのに」 ジャミルに怒られる、と顔を青くするカリムに、フロイドはまた大きな声で笑った。 それから、一緒に謝ってあげると言い、カリムを立たせてその背中を押す。カリムはしょんぼりと肩を落として、フロイドにごめんと謝った。 どちらかと言うと、眠っていたカリムに気づいていながら起こさなかったフロイドが悪いのに。 それでも彼の従者に叱られることに巻き込ませてしまってごめんと言うカリムに、フロイドは「そうやって謝るのうざぁ〜い」と軽いノリで返した。 とぼとぼと歩くカリムの項に、うっすらと残る歯型を見下ろして、フロイドはにんまりと笑うのだった。畳む
その褐色の肌に噛みつきたいと思った。
夕日が差す教室で、一人の青年が腕を枕にしてうつ伏せに眠っていた。
真珠のように美しい色の髪と、褐色の肌。今は見えないが、閉じられた瞼の下には宝石よりも美しい赤い瞳がある。
そんな青年――カリム・アルアジームの隣に、もう一人、男がいた。
ターコイズブルーの髪に、異なる色合いの双眸。カリムとは正反対の白い肌の男はフロイド・リーチと言う。
フロイドがカリムを見つけたのはたまたまだった。
授業がすべて終わり、部活へと行く気になれなかった彼は、寮へと戻ろうとしていた途中で教室にノートを忘れていたことを思い出した。
別に取りに行くのは明日にしても良かったが、なんとなく取りに戻る気分になったフロイドが教室の扉を開いたら、気持ち良さそうに眠っているカリムを見つけたのだ。
カリムは気分屋のフロイドにしては珍しく気に入っている人間の一人だ。
最初は起こしてやろうと近づいたのだが、不意に目に入った、白いカーディガンから覗くカリムの項を見たとき、フロイドはカリムを起こすのをやめた。
無防備に眠るカリムの首筋を見て、なぜかそこに噛みつきたいと思ってしまったからだ。
別に噛み付いて、噛みちぎってやりたいというわけではない。甘く噛んで痕を残したいと思ったのだ。
なぜ突然そんなことを思ったのか、フロイド自身にもわからない。とかく、カリムを起こそうという気がなくなってしまったのだ。
そうして、じっと眠るカリムを見つめている。何度か手が眠るカリムの首筋に伸びたが、そのたびにフロイドは伸ばしかけた手を引っ込めた。
どうして噛みつきたいなどと思ってしまったのだろうと考える。別に空腹なわけではないし、人間なんて食べても美味しくないだろう。
特にカリムはその生まれ故に数年前まで毒を頻繁に盛られていたらしく、もしも食べてみたところで食あたりでも起こしそうだ。
勝手にそんな品定めをされているとは思ってもいない……そもそもフロイドの存在に気づかずに眠ったままのカリムは、静かに呼吸に合わせて肩を上下させる。
起きる気配は今のところない。フロイドがこのままカリムを放って行ったら夜になっても目が覚めなさそうな程、深く眠っている。
そういえば、とフロイドは思考する。こうしてカリムと二人でいるのに、こんなに静かなのは珍しい。
起きているときのカリムはいつだって元気いっぱいで、フロイドと一緒にいれば歌ったり踊ったりと、とにかく明るく笑顔が絶えない。
こうしてただ二人で並んでいるだけ、というのは一切なかった。そもそもカリムは眠っているのだから、当然のことなのだけれど。
眠るカリムはあまりにも静かだった。上下する肩を見なければ本当に眠っているのか疑ってしまうほどに静かだ。
「……ラッコちゃん」
フロイドは自分がつけたあだ名でカリムを呼ぶ。その声は眠る人間を起こす気がないと分かるほど小さく、当然カリムからの返事はない。
「ラッコちゃん」
今度は先程よりも大きな声で呼んだ。それでも眠っている人間を起こす程の音ではない。この程度では反応がないのはわかっているのに、なぜかフロイドは少しだけ苛立った。
起こす気がないのに、眠る人間の反応がないことに苛立つなんてあまりにも理不尽だ。それくらいわかっていたが、それでもなぜかフロイドは腹の奥がもやもやするような気持ちになった。
「ラッコちゃん」
いつも彼を呼ぶときと同じ声で呼ぶ。浅い眠りだったらカリムは起きていたかもしれないが、あいにくと彼は深く深く眠っている。だから当然返事はない。――そのはずだった。
「……ん……フロイド……」
名を呼ばれてフロイドは驚く。カリムはいまだ眠ったままだ。先程のは寝言だったのだろう。
それなのにバクバクとフロイドの心臓は早鐘を打ちだして、耳元のすぐそばで心臓が鳴っているように鼓動が聞こえた。
……なんだこれ、なんだ、これは。
胸元を抑えて、頭の中が真っ白になる。落ち着けと自身に言い聞かせるが、それでも心臓がどくんどくんと血を送る音が体中に響く。
ふと、カリムから反らしていた視線をまたカリムへと戻したとき。褐色の首筋が、再びフロイドの目の映った。
「んん……?」
「あは、ラッコちゃん起きた〜?」
周囲がすっかりと暗くなったとき。漸くカリムは目を覚ました。
ここがどこかわからないのか、まだ意識がはっきりしてないのか。ぼんやりとした瞳でカリムはフロイドを見つめる。
何度かぱちぱちと瞬きをすると、カリムの瞳に光が戻る。
「あれ……フロイド……? なんでここにいるんだ?」
「ラッコちゃん、ここが教室だってわかって言ってる?」
「え?」
自室だと勘違いしているらしいカリムに、ここがどこだか教えてやる。カリムはきょろきょろと周囲を見渡して、教室で寝ていたことにやっと気づいたらしく、慌てた。その様子にフロイドは声を上げて笑った。
「ふ、フロイド! なんで起こしてくれなかったんだ?!」
「んー? だってラッコちゃん、気持ちよさそ―に寝てたから」
「そうなのか? そんなの、気にしなくて良かったのに」
ジャミルに怒られる、と顔を青くするカリムに、フロイドはまた大きな声で笑った。
それから、一緒に謝ってあげると言い、カリムを立たせてその背中を押す。カリムはしょんぼりと肩を落として、フロイドにごめんと謝った。
どちらかと言うと、眠っていたカリムに気づいていながら起こさなかったフロイドが悪いのに。
それでも彼の従者に叱られることに巻き込ませてしまってごめんと言うカリムに、フロイドは「そうやって謝るのうざぁ〜い」と軽いノリで返した。
とぼとぼと歩くカリムの項に、うっすらと残る歯型を見下ろして、フロイドはにんまりと笑うのだった。畳む