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フロカリ / あなたを祝う

 楽しいことが好きだ。宴もパーティーも祭りもなんでも、誰かが楽しんで喜んでいる姿を見るのが好きだ。
 誰かが楽しければ自分も楽しくなるし、誰かが喜んでいると自分も嬉しくなる。だからカリムは宴や祭り、祝い事なんかが大好きだ。
 そしてまさに祝い事を目前に控えたある日、カリムは自室でうんうんと唸っていた。
 目の前にはカリムにとって身近な熱砂の国特有の打楽器と弦楽器がそれぞれ包装されている。特別にターコイズブルーに染め上げられたそれらは、あと数日で誕生日を迎える、双子の人魚のフロイドとジェイドに贈る予定のものだ。
 誕生日には、相手に思い切り喜んでもらえるものを贈りたい。それも、好いた相手だったらなおさらである。つ、と指先で打楽器が包まれている包装を撫でながら悩む。
 相手は自分と同じで音楽や踊りが好きで、特にドラムを好むようだった。だからつい、カリムの得意な熱砂の国の打楽器を用意した。
 こう言うと弦楽器の方はついでのように感じられるが、ちゃんと得意な楽器を聞いて用意したものである。こちらもしっかり真心がこもっているのは間違いない。ただ、もう片方にはちょっとした下心もあるだけで。
「フロイド、喜んでくれるかな……」
 豪奢な絨毯に転がって、喜んでくれると良いなと願う。きっとたくさんの人からプレゼントをもらうだろう。その中でも一番に喜んでほしいと思ってしまうのは、酷いワガママだ。
 何度か頭の中で喜んでくれる姿を想像してみるが、うまく思い浮かべることができなかった。なんと言っても渡す相手はどちらも一筋縄では行かない相手で、どんな反応でもありえそうだと思えてしまう。
 カリムにとっては二人とも間違いなく良い人ではあるが、万人にはそうではないらしいので、プレゼントを嫌がられたりしないだろうかと心配になる。
 せめて表面上だけでも喜んでくれれば良い。カリムにしては珍しく、ハードルを下げて心の準備をする。時に押し付けがましい善意や好意も、今は鳴りを潜めた。恋とはどんな人間でも臆病にさせてしまうようだ。
 嫌な想像は頭を振って追い出して、とにかく二人が喜んでくれると嬉しいと思い直す。
 魔法の絨毯を呼び寄せて、当日はこの二つを乗せていくから頼むぞと言えば、絨毯は胸を張るようにしてみせた。
 今からどきどきと早まる心臓を胸の上から抑えて、カリムは今日はもう寝ようと起き上がり、一人で眠るには広すぎるベッドへと移動した。

 そうして訪れた双子の誕生日。カリムは先日、言ったとおりに魔法の絨毯にフロイドとジェイドそれぞれへのプレゼントを乗せて二人のもとへと向かおうとしていた。
 きっと寮の談話室で盛大にパーティーをしているに違いないと勇んでオクタヴィネル寮へとやってきたが、中から聞こえる楽しそうな声になぜだか尻込みしてしまう。
 いつもなら真っ先にその中に駆け込んで、自分も混ざってしまうカリムにとってはありえないことだ。
 けれど、楽しそうな声の中心にいるのが自分の好きな相手だと思うと、なんだか複雑な気持ちになってしまうのだ。好きな相手が楽しんでいる姿を見て複雑になるなんて、あまりにも失礼だろう。
 くいくいと絨毯が行かないのかと房で器用にカリムの寮服を引っ張るが、カリムの足はなかなか動かない。
 どうしよう、と考えていたその時だった。
「おや、カリムさんではありませんか。どうしたんです? こんなところで」
 今日の主役の一人であるジェイドがやってきた。普段は見ない白いジャケットがよく似合っている。カリムは一瞬その姿に見とれて、きっともう一人の主役であるフロイドも格好いいのだろうと意識を飛ばしかけて慌てた。
「ジェイド、誕生日おめでとう! これはオレからのプレゼントだ!」
 気を取り直してそう言って、弦楽器の方をジェイドへ渡す。かさりと少し包装と解いて中を確認したジェイドは少し驚いた顔をしたあとに、嬉しそうに「ありがとうございます」と言ってくれた。そのことにホッと安心する。
 そこでカリムは思いつく。フロイドへのプレゼントをジェイドから渡してもらおうと。
「なぁジェイド、悪いんだけど」
「ふふ、お断りします」
「お、オレはまだなにも言ってないぞ!?」
 フロイドにこれを、と絨毯の上のプレゼントを差しだそうとする前に、ジェイドに断られてしまった。
 楽しげに笑うジェイドは大事そうにカリムからのプレゼントを抱えつつ、魔法の絨毯の上を見つめる。
「それはカリムさんから直接、フロイドに渡してあげてください。僕から渡せばきっとフロイドの期限を損ねてしまいます」
 カリムの言いたかったことを当てられ、うぐ、と言葉が詰まる。カリムから直接渡さなければフロイドの期限が損なうというが、本当にそうだろうか? 自信なくジェイドを見上げると、大丈夫ですよと微笑んでくれた。
 その笑顔に背中を押され、カリムはジェイドと共に談話室へ向かう。
 談話室へと足を踏み入れると、すぐにフロイドと目があった。
「あー! ラッコちゃんおっそいじゃーん! あともうちょっとで迎えに行こうかと思ってた、ってジェイドの持ってるのってラッコちゃんからのプレゼント? 先にもらってんのズリー!」
「ふふふ、すみません。先程そこで会った時に頂いたんです」
 フロイドのぶんもありますから、とジェイドに背中を物理的に押されてフロイドを囲む輪の中心に行く。
「え、っと、フロイド、誕生日おめでとう。これ、オレからのプレゼントだ。喜んでもらえれば良いんだけど……」
 絨毯からそっと持ち上げたプレゼントを遠慮がちにフロイドに渡す。ジェイドに渡したときとは正反対だ。
 フロイドはそんなこと気にせずにひょいとプレゼントを受け取ると、その場でばりばりと包装を破いた。中から現れたターコイズブルーの打楽器に瞳を輝かせる。
「すっげーじゃん、熱砂の国の太鼓? あは、色がオレとジェイドの髪とお揃いとか洒落てんじゃん!」
 嬉しそうにいろんな角度から眺めるフロイドの様子に、喜んでもらえたとカリムも嬉しくなる。
 叩き方教えてよとねだって来るフロイドの隣に座って、渡したプレゼントを最初に使ってみせることになったことには気にせず、カリムは演奏してみせるのだった。

「あー、楽しかった。陸でのパーティーのが楽しいねぇ、ジェイド」
 上機嫌にたくさんのプレゼントを見つめるフロイド。一番目立つのは、やはり己たちの髪と同じ色をした楽器だ。
 それを見つめるフロイドの眦が下がる。
「そうですね、フロイド。良かったですね、カリムさんから直接プレゼントをいただけて」
「ほんと良かったぁ。ジェイドでしょ、ラッコちゃん連れてきてくれたの」
「ええ、危うく僕がフロイド宛のプレゼントを変わりに受け取るところでしたよ」
「うげぇ、そーしてたら絶対ぇ受け取んねぇから」
 げぇ、と舌を出してみせるフロイドに、くすくすとジェイドは笑ってみせる。意地悪は良くないですよ、と嗜めることは忘れない。
「早くラッコちゃん告ってくんねぇかなぁ。じゃないとオレそろそろ我慢できないんだけど」
「そう言うんでしたらフロイドからカリムさんに告白すればいいのに、なぜしないんです?」
 ジェイドもフロイドも、カリムの気持ちを知っている。そしてフロイドもカリムのことを同じように好いている。
 両想いであるのならばとっとと気持ちを告げればいいのに。そう問えば、返ってきた答えはフロイドらしいものだった。
「そんなのオレの言うことにいちいち反応してるラッコちゃんが可愛いからに決まってんじゃん!」
 でも本気で我慢できねぇなーとぼやく相棒に、ジェイドは仕方ないですね、と苦笑をこぼした。畳む
    

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