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カブライ / Blue Blood Engagement
DBHパロディ
アンドロイドカブルー×人間ライオス

 ライオスの子供時代は孤独だった。
 仕事ばかりで振り返ってくれない父、ライオスを産んですぐに亡くなってしまった母。愛想は良いが、腹で何を考えているのか分からない使用人たち。
 そういった大人たちに囲まれて育ったせいか、ライオスの幼少期は外との繋がりがなかった。
 転機はライオスが五歳になった頃に訪れた。父が人型のアンドロイドの開発に成功したのだ。
 ライオスが初めて父からもらったものは、女性の子供型アンドロイドのファリンだった。
 髪が長く、ライオスと同じくらいの年齢の見た目をしたライオスにどこか似たアンドロイド。彼女をライオスの前に差し出すと父は短く「お前の妹だ」と言った。
 妹。絵本で読んで知っている。本来なら亡くなった母から生まれるはずの妹を父からプレゼントされた。最初は父が何を考えているのか分からなかったが、ライオスは初めての同じくらいの歳の子供と出会えて嬉しかった。それがたとえアンドロイドであっても。
 ライオスはファリンを連れて遊び回った。本を読んであげたり、木登りをしたり。
 しかしそんなライオスを、周囲は奇異の目で見るようになった。アンドロイド相手にまるで本当の人間のように接するライオスのことを気味悪がったのだろう。
 学校に行くようになっても友達を作らず、というよりもうまく馴染むことができず、結局ライオスの遊び相手はファリンだけだった。子供というのは残酷なもので、ライオスがアンドロイド相手に遊んでいることを理由にライオスを虐め始めた。
 忘れもしない十一歳の冬、ファリンを連れて外を出歩いていたあの日のことを。ライオスのことが気に入らなくて仕方がないらしい連中が、ファリンのことを馬鹿にしてきたのだ。
 そして五歳の姿の女の子を連れ歩くライオスを気持ちが悪いと言った。別にそれは構わない。ライオスは無視してファリンとその場を去ろうとした。するとライオスのその対応に怒りを覚えたらしい一人が、近くに落ちてあった木の棒を持ってライオスに殴りかかろうとした。
「兄ちゃん危ない!」
 殴られそうになったことに気づいていなかったライオスはファリンに突き飛ばされ、代わりにファリンが殴られた。ぼこりと音を立て、ファリンの頭が割れる。青い液体と機械仕掛けの体内が見える。
 ライオスはそれを見てショックを受けた。
「ファリン! ファリン!!」
 ファリンが、ファリンが死んでしまう。どうしよう。すぐに気体になる青い血は止められなくて、こめかみのLEDリングが赤く光っていて。
 ライオスは混乱していた。殴ってきた奴らも、アンドロイドを破壊してしまったことと、ライオスの異常なまでの動揺に怖気付いたのか走って逃げていった。
 ライオスはファリンを抱え上げて父の元へ走った。走って、走って、ようやく父の元についた時。ライオスは出せる限りの声を張り上げた。
「父さん! ファリンが怪我をしたんだ! ファリンを治して!」
 父は冷めた目でライオスを見下ろし、ファリンのことを確認する。そうしてライオスの腕からファリンを受け取ると、どこかへ去ってしまった。
 家の中、膝を抱えてファリンが帰ってくるのを待っていた。ファリンが死んでしまったらどうしようと頭の中ではそれだけしか考えられなかった。
 食事を摂ることも忘れて、ただ父の帰りを待った。元気になったファリンを連れて父が帰ってくるのを待っていた。けれど、いつだって現実は残酷だった。
 夜が明ける頃、父が一体のアンドロイドを連れて帰ってきた。アンドロイドはライオスと似た見た目をしていて、髪は肩くらいまでの長さ。年はライオスと同じか少し下くらいか。ライオスは嫌な予感がした。
「ライオス、このアンドロイドがお前の妹だ」
「兄ちゃん。ただいま」
 にこりと笑う妹を名乗るアンドロイド。アンドロイドが歳をとることがないことぐらいライオスだって知っている。彼女は、ファリンではない。
「お前がファリンに読み聞かせていた本のデータなどは入れておいた」
 それだけ言うと父は去っていった。残されたのは、ライオスと子供型のアンドロイドだけ。ライオス自身が本の読み聞かせをしてやったり、一緒に木登りをしたファリンではないファリン。
 一緒に遊んだ記憶がないのに、それをファリンと言えるのだろうか? ライオスはそんな疑問を抱きそうになるが、すぐにその疑問を掻き消した。代わりに自分より少し幼いファリンを抱きしめる。
「……おかえり、ファリン」
 アンドロイドに罪はない。罪があるのはファリンを壊した人間だ。アンドロイドを人間のように扱うだけで嘲笑し、馬鹿にしてライオスの尊厳を踏み躙ろうとする人間たちだ。
 “新しい“ファリンを抱きしめながら、ライオスはファリンの頭を撫でてやった。
 ライオスはこの時、初めて自分が涙を流していたことに気づいた。

 時は流れていく。あの出来事があってからはファリンを家の敷地から出さないようにした。使用人たちにも極力会わせないようにして、ライオスは外の世界では一人で過ごすようにした。
 “家“に帰れば自分を受け入れてくれるファリンがいる。代わりにファリンが家で寂しくないよう、犬を飼うことにした。父に頼んで大型犬を何種か、それぞれライオスとファリンで名前をつけ可愛がっている。
 犬は良い。感情表現が直情的で何を求めているのか、何を嫌がるのかが分かりやすい。
 ファリンとの仲も良好だった。ファリンはよくライオスのことを「兄ちゃん、兄ちゃん」と言って後を付いてくる。時折鬱陶しいと思うこともあったが、それ以上に可愛さが勝った。
 相変わらず外の人間たちのライオスを見る目は冷たいが、ライオスはそんなことどうでもよかった。外の人間なんてどうでもいい。自分にはファリンがいる。
 けれどもそれだけでは生きていけないのが人生である。万が一ファリンに何かあった時のために、ライオスは父の会社を継ぐため、勉強をしている。幸いにしてライオスはアンドロイドに対する意欲は強く、他の学問が駄目でもアンドロイド学に関しては抜きん出ていた。
 おかげで父にも後継と認められ、大学に通いながらアンドロイドについて学んでいる。
 父のことはあれから苦手意識から変わって、嫌悪を抱くようになった。けれど、アンドロイドと関わっていく上では必要な人物ではある。特に、ファリンのような型落ちしたアンドロイドの修理をするためにはその型番にあったパーツを用意する必要がある。
 少しずつ部位を上位互換させていっているが、要所の大事なパーツは古いまま。アンドロイド製作者の息子という立場にいなければ手に入らないパーツもある。だから今の立場を重宝している。
 そんなライオスの家を目的に近づいてくる人間は多々いたが、ライオスの人間に対する拒絶の空気を感じ取るとすぐに逃げていく。ライオスが信頼できるのは、愛玩動物やアンドロイドだけになっていた。
 ある日のことだった。父から新しいアンドロイドを作ってみろと突然言われたのだ。
 ライオスはしばらく混乱したが、一から自分が設計するということになって確かに嬉しかった。ライオスが初めて作るアンドロイドはきっとラインには乗らないだろう。つまり自分で自分専用のアンドロイドを作れと言う意味だった。
 父なりのライオスを認めた証だったのだが、ライオスはそのことには気づいていない。
 とにかく自分自身で理想のアンドロイドが作れると言うことに期待でいっぱいだった。
 一体どういうアンドロイドを作ろうか? ライオスは考える。
 万が一壊れてしまっても大丈夫なように記録媒体を移植できるようにしよう。今の技術では完璧にデータを保持することは無理だろうが、いつか完全にデータが移植できるように。
 そうすれば、人間の成長に合わせて体を変えていくアンドロイドもできるんじゃないか、なんて。ライオスは夢を見る。
 さて、それならばファリンが子供ではあるが女性型だから、男性型でも作ってみようか。
 どう言うアンドロイドにしようか、などと街中で考えていると、ふいにスクリーンに映された青年が目に入った。
 褐色の肌と青い目、くるりと巻き毛が特徴の黒髪。十人が十人振り返るほどの端正な顔立ち。
「か、ぶ、るー……?」
 映し出されたスクリーンに記された名前を読み上げ、ライオスはモデルか俳優かと考える。端正な顔立ちだが、ライオスは特に惹かれなかった。どんなに端正な顔立ちをしていても、彼は人間である。
 ライオスはすぐに視線を背け、どんなアンドロイドを作るか考えるために急いで家に帰った。
「ただいま、ファリン」
「おかえり兄ちゃん!」
 家に入るなりファリンが勢いよく出迎えてくれた。抱きついて、嬉しそうにしているファリンに、ライオスも思わず口元が緩む。ファリンは女性型のアンドロイドだから、自分で作るのは男性型のアンドロイドにしよう、そう頭の中でメモをした。
 子供型ではなく、大人型で。それでもファリンの良き弟になるように。
「ファリンはもうすぐお姉ちゃんになるんだぞ」
「ファリン、お姉ちゃんになるの?」
「そうだよ。今度俺がアンドロイドを作ることになったんだ。完成したら、ファリンはお姉ちゃんになる」
「そうなんだ……! 嬉しい、楽しみにしてる!」
 随分と下にあるファリンの頭を撫でると、ファリンは不意に部屋に置いてある大きなくまのぬいぐるみのところに行くと、「私、お姉ちゃんになるんだって」と語りかけていた。それが終わると、飼っている犬たちにまで報告に行ってくる! と駆け出してしまった。
 よほど嬉しいのだろう。そんなファリンの姿を微笑ましく眺めつつ、設計に入る。ライオスの持つ知識を最大限に活用して、最新のアンドロイドを作り上げる。それを目標に、タブレットに筆を走らせた。

 そうしてライオスがアンドロイドが作ることが決まって一年近く経ってから、アンドロイドが完成した。
 ライオスは自分の研究室で起動する前にアンドロイドの外見を考えた時、ふと青い瞳が頭を過ぎった。
 黒い巻き毛と褐色の肌、青い瞳。名前は……。
「カブルー、そうだ。君の名前はカブルーにしよう」
 なんとなく思いついた名前に決め、外見の設定も決めると早速準備した。
 ブルネットの巻き毛、瞳の色の設定、肌の色の設定、名前の設定。どれも問題ない。
 それならばライオスの作ったアンドロイドの、カブルーの目覚める時間だ。そっと電源を入れると、吸い込まれそうな青い瞳に光が宿る。
 こめかみのLEDリングが緑色に光り、ぼんやりとしていた表情がしっかりしたものになっていく。
「おはよう、君の名前はカブルーだよ」
「カブルー……かしこまりました、マスター」
 目覚めたばかりでどこか他人行儀なカブルーの物言いに、そんな設定したかなと思いつつ苦笑する。
「そんな他人行儀な喋り方しなくていいよ。俺のことはライオスと呼んでくれ」
「ですが……いや、分かりました。ライオス」
「だから敬語もいらないよ、カブルー」
「それはさすがに」
 ぐいぐいと寄ってくるライオスに今度はカブルーが苦笑した。
 彼には最新の機能をありったけ搭載している。それに適応するまでに数秒かかったのだろう。
「調子はどうだい。機能の設定なんかは終わったかな」
「はい、機能は正常に起動しています。問題ありません」
 視線を左右に彷徨わせた後、カブルーは頷く。ライオスはそんなカブルーの様子にホッとして、それじゃあ自分たちの家へと離れに案内することにした。
 離れに行く途中で使用人がカブルーを何度か見直していたが、ライオスは気にしなかった。しかしカブルーは気にしたようで、ライオスにそっと伺う。
「……どうして僕をこの外見にしたんですか?」
「うん? どうしてって……なんとなく思いついたから?」
 顎に手を当てながらカブルーの外見を決めた時のことを思い出す。考えていた時にパッと思い浮かんだのが今のカブルーの外見、名前だ。
 思ったまま伝えると、カブルーはじっとライオスを見つめた後ににこりと笑いながら「そうなんですね」と納得してくれた。
 変なことを聞くなと思い、カブルーにどうしてそんなことを聞くのかと尋ねようとしたところでカブルーが早く家に案内して欲しいと言った。だからライオスの疑問は飲み込むことになった。
「――兄ちゃん! ……と、誰?」
 離れに着くと早速ファリンが出迎え、そしてライオスの後ろにいるカブルーについて聞く。
 ライオスはファリンの目線に合わせるように膝を着くとカブルーの全身を見せるようにファリンを一歩前へと踏み出させた。
 優しくファリンの背に手を添えると、ライオスはファリンとカブルーを向かい合わせる。
「ほら、ファリン。前に言ってただろ? ファリンはお姉ちゃんになるんだって。彼はカブルー、俺の作ったアンドロイドだよ」
「兄ちゃんが作ったアンドロイド!? じゃあこの人……カブルーがファリンの弟になるの?」
「そうだぞ。カブルー、彼女はファリン。俺の妹だ」
 カブルーはぱちりと目を瞬かせるとファリンとライオスを交互に見比べ、すぐに笑顔を浮かべるとライオスと同じように膝を折り、ファリンと目線を合わせる。
「初めまして、カブルーです。えぇと……ファリン姉さん?」
 姉さんと呼ばれたファリンは嬉しそうに瞳を輝かせると、カブルーの手を掴んだ。
「ファリン姉ちゃんがお家を案内してあげる! ついてきて、カブルー!」
 そのままライオスの許可も得ずファリンはカブルーを引っ張って言ってしまう。カブルーは一瞬だけライオスに視線をやったが、ライオスは見送るように微笑みながら手を振るからカブルーはおとなしくファリンの後をついて行くことになった。
 ライオスは書斎にでも引っ込もうかと立ち上がった。
 書斎に向かう途中、家中で少女の喜びに満ちた声と少し戸惑う青年の声が響く。その音はライオスにとって幸せで満ちていて、自然と笑顔が溢れた。
 書斎に入って本を取り、ファリンがよく横になるソファに座る。途中、扉の外からファリンの「ここは兄ちゃんの書斎だよ! 今は兄ちゃんが中で本を読んでるから静かにね」という元気な声が聞こえたが、それ以降は静かだ。
 しばらく本を読み耽っていたが、扉が開く音がしてそちらに意識が向かう。ファリンが来たのだろうかと思っていたが、予想を裏切ってそこに立っていたのはカブルーだった。
 ソファの近くのサイドランプしか点けていなかったため、カブルーの青い瞳が暗がりに浮かび上がっているように見えた。
 カブルーはライオスに近づき、ライオスの隣に腰を下ろす。
「ファリン姉さんは随分と表情が豊かですね」
「そうかな、ファリンは昔からああだよ」
「昔って?」
「俺が十一の時からかな」
 ファリンが来てからもう十年以上経つと説明すると、カブルーは驚いた表情をした。
「十年以上!? 最新のアンドロイドかと思いました……」
「まぁ、定期的にメンテナンスしてるからね」
 ファリンは大事な妹だからね、と語るライオスをカブルーは目を細めて見つめた。
 カブルーの質問に答えたライオスは再び本に視線を落とそうとするが、カブルーが身を乗り出してライオスを見つめてきたので遮られてしまう。
「なら……俺は?」
 どこか不安げに聞いてくるカブルーに、ライオスはきょとんとする。何を聞いてくるのかと思えば、そんなことかと笑ってしまいそうになるが、カブルーの表情は真剣だ。
 これはちゃんと答えないといけないとライオスは表情を引き締める。
「もちろん、カブルーも大事な家族だよ」
 カブルーの目を見つめ返して言うと、カブルーの目が一瞬見開かれて、それから柔らかい笑みの形になった。とても自然で、思わず美しいと思ってしまうような笑みだ。
 カブルーはライオスの開いていた本の上に乗っかって、そのまま猫のように懐いてくる。
 見た目に反して幼い行動に、こんな設定にしたかなと疑問を持ちつつ、それでもカブルーの自由にさせる。こうなっては本を読むのは中断するしかない。
 膝の上に乗っかってくるカブルーの髪を撫でる。これはこれで穏やかな時間だ。
 カブルーを作ることになってからお姉さんぶってファリンはライオスの膝で眠ろうとしないが、代わりにカブルーがしてくるようになるとは。想像もしていなかったが、こう言うのも悪くない。
 傍から見たら成人男性同士の膝枕という構図に見えるが、ライオスにとってはカブルーも可愛い自分の弟のような存在だった。それにここにはファリンとライオス以外、誰もいない。
 誰にも文句を言われないし、言わせない。ここはライオスだけの箱庭だ。
 窓から差し込む夕焼けの光を浴びながら、ライオスは静かにカブルーの頭を撫でていた。畳む
    

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