2024/11/24 DiD,リィンカーネーションの輪 カブライ / 転生・聖剣LOMパロ / 第二話記憶なしカブルー×記憶ありライオスの続きです。続きを読む やってきた酒場には、ライオスにとって見慣れた人物がいた。 かつてカブルーの仲間達だった者が全員揃っている。それぞれ記憶はなさそうなのに、みんな集まっているところを見るに、それだけ縁が濃かったのだろうと思うと、それならライオスはなぜ一人なのだろうと考えてしまう。 これも悪魔の呪いなのだろうかと落ち込みかけるが、突然大の男が落ち込み出したらきっとみんな驚くだろうと我慢した。 カブルーに案内され、椅子に座る。じろじろと向けられる視線が痛い。「みんな、この人はセンシだ。どうやら街道で盗賊に遭ったらしい」「……え? あ、あー……センシだ。よろしく」 一気にライオスを見るみんなの視線が冷たくなった。カブルーに紹介されたものの、一瞬誰のことを言われたのか分からなくて間が空いてしまったのが原因だろう。 偽名を名乗るにしてももっと近い名前にすべきだったなと今更ながら後悔する。怪しまれているのを実感し、視線をうろうろと彷徨わせる。 カブルーはそんなライオスや仲間達の様子を気にした風でもなく、給仕に飲み物を頼んでいた。ややあってライオスの前にも果実水が置かれた時、一緒に頼んでくれたのかと感動する。さすがカブルーである。「――で? そいつ、センシ? が街道で盗賊に遭ったからってどうするつもりなのさ」 ハーフフットのミックベルが胡散臭そうにライオスを指差す。その問いに、カブルーは当たり前のように「盗賊の討伐に行こうかと思って」と答えた。 そんなカブルーの返事に、ミックベルはというと「はぁっ!?」と大声をあげて立ち上がった。「何、そんな怪しい奴のために盗賊倒して荷物でも返してもらおうっての? うげー、僕そんな慈善事業嫌だからね!」 そう言うとミックベルはライオスをジロリと見遣り、「だいたい金も持ってなさそーだし」と付け足した。事実である。「金を持っているかどうかは関係ないだろ? それに、僕たちは金儲けのために冒険者をしているわけじゃない」「そうだけどさ……」 拗ねたように言うミックベルをカブルーは嗜めると、ミックベルは首を竦めた。 彼らが冒険者をしている理由はなんだろう? そんなライオスの疑問が顔に出ていたのか、カブルーがにこりと笑う。「僕たちはある人達を探しているんです」「探している?」「ええ。七賢人を」「七賢人……?」 聞いたことのない単語だ。七賢人というのだからとりあえず七人いるのだろう。悩み始めてしまったライオスに、カブルー達は驚く。まるで信じられないものを見るように。「え、七賢人を知らないんですか?」「う、うん……知らない」 知らないことがそんなにおかしいことなのだろうか。焦っていると、カブルーがこほんと咳払いをする。「七賢人は二百年前に五期続いた戦争を終結させた英雄たちのことですよ」「学校の教科書にも載ってるぜ〜」「ミックベルは学校に行ってないでしょ」 学校の教科書に載っているような人物たちなのか、それなら知恵のドラゴンたるライオスに挨拶に来てくれても良いのに。二百年前だったらだいぶ暇をしていたと思い出しながら頷く。「その中でもガイアは街道にいるらしく、僕達はまずガイアに会おうと思っています」「ガイア……」 名前を聞いて、少し考え込むと不意に大きな岩に顔が浮かび上がった映像が頭の中を過ぎる。それがなんだったのか分からず、驚いているとカブルーたちの視線が再びライオスに集まっていることに気づく。 慌てたライオスは両手をあげて「なんでもない!」と言うが、誰も信じていないようだ。当然だろう。偽名を使っている一文無しの冒険者だ。 ライオスは頬を掻きながら「えーっと……」と言葉に詰まる。「ガイアって、岩に顔があったりするのかな」「ガイアのことご存知なのですか?!」 カブルーが前のめりになってライオスに問う。ライオスはその勢いに驚きつつも「うぅん」と唸った。「知っているというか……頭に浮かんできたというか……」「頭に浮かんできた?」「うん……信じてもらえないかもしれないけど」 これは知恵のドラゴンの特性なのだろうか。世界の番人として知るべき知識を携えているのかもしれない。だとしたら他の七賢人とやらも分かるのかも?「他の七賢人の名前も教えてくれないか?」 机の上に乗り出して聞いてみると、カブルー以外のパーティは身を引いたが、カブルーだけはライオスの疑問に答える。「詩人のポキール」「……鳥みたいな人?」「奈落の主オールボン」「球根みたいな頭をしている? 背景は……真っ暗だ」「海を渡る亀トート」「歳を取った海亀……湖みたいなところにいる気がする」「獣王ロシオッティ」「格好いい獣が眠ってる姿……場所は森の中かな」「ちょっと! 待ちなさいよ!」 ぽんぽんとやり取りするカブルーとライオスの間にリンシャが割り込んだ。 そして先刻よりも疑いを深めた眼差しでリンシャはライオスを見る。その眼差しには怯えも含まれている。「七賢人のことを知らないのになんで名前が分かったら姿が思い浮かぶのよ!」 しかもだんだん場所が具体的になってきてる! リンシャ以外のパーティメンバーも気味悪そうにライオスを見ていた。ライオスは調子に乗ってしまったことに、失態を犯したと気づく。 もしこれで己が知恵のドラゴンであることがバレでもすれば、元の森へと戻されてしまうかもしれない。それはいやだ。あの洞窟の前でただ一人、いつ終わるかも分からない役目のためにいるだけなんて。 せめてドラグーンを見つけてから、と考えていると、いよいよカブルーのパーティの中から不満が噴出し始める。「やっぱり怪しいやつのために盗賊狩りなんてごめんだね」「ミックが言うなら、クロも」「私もちょっと……」「僕も少し気が引くかなぁ」 どんどんライオスに対しての信頼が失われていく。それはそうだ、気味が悪くて当然だろう。本名を名乗らず、金も持っていない、七賢人を知らないと言うのに名前を上げられればどんな人物か分かるなんて訳の分からない人間を助けようだなんて誰も思わないはずだ。「何を言ってるんだ、みんな! これだけ七賢人に詳しい人なんてそういない!」 しかし、カブルーは違ったようだ。嬉しそうにライオスの手を握る。「それにセンシが悪人ではないことぐらい分かるだろう?」 何を以てして悪人ではないと言い切れるのかとライオスは思ったが、どうやら他のメンバーもライオスのことを怪しいとは思いつつも悪人とは思っていないらしい。何故だろうか。 疑問符を浮かべているライオスにお構いなしでカブルーはずいずいとくる。「他には? 傀儡師アニュエラなどは?」「アニュエラ……うーん、彼女の姿は見えないかな……」 アニュエラと聞いてもぼんやりとしか面影しか浮かばない。なんとなく、もう彼女はこの世にはいないのだろうという確信があった。 そう答えると、ライオスの手はさらに強く握られた。少し痛みを覚えるくらいだ。カブルーを見ると彼は瞳孔を開いてライオスのことを見ていた。なんとなく懐かしい気持ちになる。他国との会食の時などで様々な貴族などが来るときに、ライオスに重要人物を教えるときのカブルーによく似ていた。「アニュエラはすでに亡くなっているという話です。あなたが本当に七賢人について詳しいことがよく分かりました。それなのに、七賢人が分からなかったふりをしていたわけでもないことも」 何か特別な力を持っているのかも、とどきりとするようなことを言い当てるカブルーに、ライオスは視線を逸らすことしかできない。 万が一でも自分が人間とは異なる存在であると知られてはまずいが、今でも嘘をつくのが苦手だ。 ライオスが視線を泳がせながら「どうかな……」と誤魔化してつつ、カブルーに手を離してもらえないかと少し手を引いてみるが、カブルーの力は強く抜け出せない。 他人の機微に聡い彼が、あからさまに手を離して欲しそうにしているのに手を離さないということは、何か理由がある時だ。「センシ、あなたが良ければ僕たちのパーティに入りませんか?」「え……?」「何を言ってるのよ、カブルー!」 カブルーからのパーティの誘いに、リンシャから反対の声が上がる。他のパーティメンバーも困惑しているようだ。ライオスにとって、一時でもカブルーの傍にいられることは嬉しいが、だからと言って他のメンバーに迷惑をかけたり不快にしたいわけではない。「申し出は嬉しいが、それで君が仲間からの信頼を失うことは望んでいない」「その程度で失う信頼を築いてきたつもりはありません」「いや、でも、話し合いはした方がいいんじゃないか?」 ちらちらと威嚇してくるミックベルなどを見ながらライオスが言うと、カブルーは「それもそうですね」とようやくライオスから手を離してくれた。「みんなはどう思う?」「だからさっき言ったじゃん! そんな怪しいやつと一緒なんてお断りだね!」 ミックベルが勢いよく立ち上がって言う。机の上に乗っていた食べ物などが揺れ動くが誰もそれに意義がないようで黙っている。 やっぱりそうなるよなぁとライオスが思っていると、カブルーが薄らと笑う。とても軽薄な笑みだった。「センシには申し訳ないのですけど、俺はセンシが利用できると思っている」 ライオスの前で堂々と利用できると宣言するカブルーに、ライオス含めみんながギョッとした。それを本人の前で言ってしまうのかと驚いてしまう。「七賢人がどこにいるか、俺たちは知らない。だけどセンシが入ってくれればそのヒントを手に入れることができる。なんでか分からないけど彼はどこに七賢人がいるか分かるらしいし、今までのように闇雲に探すよりも効率がいい」「ちょっ、カブルー! いくらなんでもその言い方は――!」 流石にリンシャが止めるが、ライオスとしてはなるほどと頷いていた。打算目的で一緒にいようと言われる方が、今のライオスにとっては逆に安心材料にもなる。 知恵のドラゴンだとバレてマナストーンを奪われると言うのが一番あってはならないことだ。だから探知機だか道具扱いだかの方が安心できるというものだった。 カブルーの口からそう言われると少し悲しいけれど、今の関係性では仕方ない。前世の仲を覚えているから寂しくなってしまうが、前世のほぼ全てをライオスに捧げてくれたカブルーを、ドラゴンとして生まれたライオスの生に縛りつけようとは思わない。 ライオスはカブルーの提案に笑顔で頷いた。「それなら俺は別に構わないよ。世界を見て回りたいと思っていたから、ちょうどいいし」 そう、ライオスはこの世界に生まれてからマナストーンのある洞窟と森しか知らない。だから外の世界を旅したかった。それが叶うなら、道具扱いだって構わない。何より、道具と言ってもカブルーたちなライオスに対して酷い扱いをしようなどとは微塵も思っていない。 軽く承諾したライオスに、今度はリンシャたちたから心配そうな視線が寄せられた。 そんな心配されるようなことなのかな、とライオスが頬を掻いていると、実際にライオスを道具扱いしようとしたカブルーにさえ本当にいいのかと言う目で見られてしまい、君が言い出したことだろうと思わず言いたくなった。「さっきも言った通り、俺は世界を見て回りたいんだ。俺は、その――冒険者と言っても田舎から出てきたばかりで、世界のことには詳しくない。だから君たちが案内人になってくれると嬉しい」 どうかな。そうぎこちなく笑うと、カブルーもどこか安心した様子で、それならばと再度手を差し出してきた。「パーティ結成ですね。センシ、よろしくお願いします」「ああ、こちらこそよろしく頼む」 結局、他のパーティの意見を聞かなかったけれど、道具扱いを受け入れたライオスに同情的になったのか反対の声は上がらなかった。 そのまま、その日のうちに街道に行こうと言う話になったのだった。 街道に向かう道中、ライオスはあらゆる質問をされた。どこ出身なのかとか、なんでそんなに世間知らずなのかとか。 ライオスは自分の住んでいた森の方角に小さな村があり、排他的な村の空気に耐え変えねて飛び出したのだと嘘を吐いた。嘘を吐くのが苦手だったライオスも、こうして簡単な嘘を吐けるようになったのは前世でカブルーに教わったからだ。 嘘にはほんの少しの真実を交えて嘘を吐けばいい。それだけで人は信じてくれると。 ライオスは村はないが本当に自分が過ごしていた方角を教えたし、村を飛び出した理由は前世であったことを言っている。ライオスの吐いた嘘は一つだけ。カブルーもそれを信じたらしく、ライオスは自分が成長したなぁと感慨深く思った。「それにしても、魔物が出なさすぎじゃない?」 ドワーフのダイアが不思議そうに呟いた。確かに、街道もしばらく歩いているのに一回も魔物に出くわさないのは珍しいのを超えてありえないことだとホルムが同意する。「いるにはいるっぽいんだけどさー、なんか隠れてるみたいなんだよね」 それに対してミックベルが持ち前の感覚の鋭さで魔物の気配はすると断じた。けれど、何かに怯えているのか出てこないと言うことも。 ライオスは思わず体が跳ねるのを堪えた。やはり人間の姿になってもライオスが恐ろしいのか、それとも前世からの呪いか。魔物との縁がさっぱり切れてしまったライオスは、迂闊に「そうなのか?」と言い出しそうになるのを、必死に堪えた。 そんなことを言えば、自分が原因であることがバレてしまう。挙動不審にならないように気をつけ足を進める。こう言う時、前世の記憶があって良かったと思う。伊達に数十年の間、一国の王をしていたわけではない。少しくらい腹芸はできるようになっていた。「いいじゃないか、魔物が出ない方が安全で。センシ、どの辺りで盗賊に襲われたか覚えてます?」「えぇと……俺は反対側から来たから、もう少し先かな……」 冷や汗が出そうになるのを必死で堪えていると、分かれ道に出た。カブルーたちは当然ライオスが来たであろう道を行こうとしたが、それをライオスが止める。 反対の道の向こう側に、何か大きな気配を感じたからだ。「待ってくれ。あっちに行こう」「え……でもセンシが襲われたのはこっちの道、ですよね?」「この向こうに何か……多分、君たちが求めているものがある……いや、いる気がする」「それって……!」 カブルーの顔が輝く。だがすぐにそれを引き締め、首を振る。「いや、今はセンシの荷物を取り戻すのが先だ。そっちの道は後にしよう」 正義感の強いカブルーらしい言葉だ。けれど、ライオスには困る言葉でもあった。 なんと言ってもライオスは盗賊に襲われていないのだから。盗賊とはいえ、無関係な人たちを巻き込むのは申し訳ない。 慌ててライオスはカブルーたちを止めに入る。「俺の荷物は剣と少しの食料くらいだ。それよりも、この道は来た時にはなかった気がする。今だけしか現れていないのかもしれないし、後回しにしたら後悔してしまうかもしれない」 荷物の件も道のことも、今度は大嘘だらけだ。もしかしたら視線が泳いでいるかもしれないし挙動不審になっているかもしれない。実際に怪しいものを見るような視線でダイアやリンシャには見られている。反対にカブルーは真剣な表情で、何か考えているようだった。 そうして決断の時。「分かった、センシの言った道の方に行ってみよう」 カブルーがそう言い、ライオスが促した方の道へと進むことになった。 他のメンバーはやれやれと肩をすくめてカブルーの後について行く。ライオスはと言うと、最後尾でホッとしていた。これで盗賊たちには迷惑はかからないだろう。 しばらく歩き続けていると――相変わらず魔物は現れなかった――、大きな岩山が道を塞いでいた。そこから先へは行けそうにない。「ほら見ろ、何もないじゃないか! それにさっきの分かれ道だって昔からあったし、やっぱりそいつ怪しいやつだ! そんなやつパーティから追い出せよ!」 ミックベルが癇癪を起こしたように叫んだ。その通りすぎてライオスは耳が痛くなったが、それ以上に岩山が気になった。 なんの変哲もない岩山だけど、確かにそこに“いる”。「あなたがガイアなのか……?」 ライオスは岩山に近づいていき、そっと声をかける。そんな姿を、不気味そうに見られていたことは分かっていたが、それでも言わずにはいられなかった。 するとどうだろうか、岩の凹凸が開き、目が現れた。横に入った裂け目が動き出し口になる。「おや、珍しいお客様だ。どうしたんだい、子供達よ」 大きく、低く、よく響く声だった。ライオスはやっぱり、と納得していたが、他の面々はそれはそれは驚いたようで。 特にカブルーは目を見開いて口をあんぐりと開けていた。「さぁ、子供達。もっと近くにおいで」 ライオスが地面が土から岩になっているところに立つと、カブルーや他のみんなも同じように岩の上に乗った。直後にごごご、と地響きが鳴って岩がせり上がり、ガイアの顔に近づく。 ライオスは呆然としているカブルーに視線をやり、「会いたかったんだろう?」と促した。 ハッとしたカブルーが、ようやく呆然とした顔から少し慌てたような顔になり、ガイアへと話しかける。「あ、あの……俺……僕はどうしても昔から会いたい人がいて、でもそれが誰だかわからなくて……教えて欲しいんです。僕が誰に出会いたいのか」 会いたい人がいる。そう聞いて、ライオスの胸が苦しくなる。そうか、カブルーにはどうしても会いたい誰かがいるのか。 わからないと言うことは、きっと前世に由来する誰かなのだろう。昔のパーティメンバーにはもう出会えている。では誰に会いたいんだろう、とライオスは考えた。メリニの関係者だろうか。マルシル、ファリン、ヤアド、それとも――。 考え込んでいると、ガイアがなぜかライオスを見つめていた。「君の求めている人はすぐ近くにいる。けれど、早く気がつかなければすぐに遠くへ行ってしまうよ」「近く……?」「私から言えるのはそれだけだよ。大事なことは自分で気づかなければいけない」 それだけ言うと、足場がどんどん低くなっていき、ガイアの顔が遠のいていく。「待ってください! もっと、もっと教えてください!」 もっと教えてほしいと訴えかけるカブルー。しかし無情にもガイアはただの石山に戻ってしまった。 カブルーの両手がだらりと下ろされた。「カブルー……」 リンシャがそっとカブルーを呼ぶと、カブルーの瞳に光が戻る。「凄い、七賢人と出会えた……! 俺の会いたい相手は、近くにいるって!」「か、カブルー?」 ホルムが不安げに名前を呼ぶ。カブルーはと言うと、ライオスに近づきがしりと手を掴んだ。「センシ、あなたのおかげだ! 今まで街道を何度も来たのに、なんで気づかなかったんだろう? でもこれで光明が見えた、これからも一緒にお願いします!」 歓喜するカブルーに、ライオスは複雑な気持ちになりながら頷いた。頷くしかなかった。 カブルーが会いたい相手とは誰だろう。それだけがライオスの心に残っていた。畳む
記憶なしカブルー×記憶ありライオスの続きです。
やってきた酒場には、ライオスにとって見慣れた人物がいた。
かつてカブルーの仲間達だった者が全員揃っている。それぞれ記憶はなさそうなのに、みんな集まっているところを見るに、それだけ縁が濃かったのだろうと思うと、それならライオスはなぜ一人なのだろうと考えてしまう。
これも悪魔の呪いなのだろうかと落ち込みかけるが、突然大の男が落ち込み出したらきっとみんな驚くだろうと我慢した。
カブルーに案内され、椅子に座る。じろじろと向けられる視線が痛い。
「みんな、この人はセンシだ。どうやら街道で盗賊に遭ったらしい」
「……え? あ、あー……センシだ。よろしく」
一気にライオスを見るみんなの視線が冷たくなった。カブルーに紹介されたものの、一瞬誰のことを言われたのか分からなくて間が空いてしまったのが原因だろう。
偽名を名乗るにしてももっと近い名前にすべきだったなと今更ながら後悔する。怪しまれているのを実感し、視線をうろうろと彷徨わせる。
カブルーはそんなライオスや仲間達の様子を気にした風でもなく、給仕に飲み物を頼んでいた。ややあってライオスの前にも果実水が置かれた時、一緒に頼んでくれたのかと感動する。さすがカブルーである。
「――で? そいつ、センシ? が街道で盗賊に遭ったからってどうするつもりなのさ」
ハーフフットのミックベルが胡散臭そうにライオスを指差す。その問いに、カブルーは当たり前のように「盗賊の討伐に行こうかと思って」と答えた。
そんなカブルーの返事に、ミックベルはというと「はぁっ!?」と大声をあげて立ち上がった。
「何、そんな怪しい奴のために盗賊倒して荷物でも返してもらおうっての? うげー、僕そんな慈善事業嫌だからね!」
そう言うとミックベルはライオスをジロリと見遣り、「だいたい金も持ってなさそーだし」と付け足した。事実である。
「金を持っているかどうかは関係ないだろ? それに、僕たちは金儲けのために冒険者をしているわけじゃない」
「そうだけどさ……」
拗ねたように言うミックベルをカブルーは嗜めると、ミックベルは首を竦めた。
彼らが冒険者をしている理由はなんだろう? そんなライオスの疑問が顔に出ていたのか、カブルーがにこりと笑う。
「僕たちはある人達を探しているんです」
「探している?」
「ええ。七賢人を」
「七賢人……?」
聞いたことのない単語だ。七賢人というのだからとりあえず七人いるのだろう。悩み始めてしまったライオスに、カブルー達は驚く。まるで信じられないものを見るように。
「え、七賢人を知らないんですか?」
「う、うん……知らない」
知らないことがそんなにおかしいことなのだろうか。焦っていると、カブルーがこほんと咳払いをする。
「七賢人は二百年前に五期続いた戦争を終結させた英雄たちのことですよ」
「学校の教科書にも載ってるぜ〜」
「ミックベルは学校に行ってないでしょ」
学校の教科書に載っているような人物たちなのか、それなら知恵のドラゴンたるライオスに挨拶に来てくれても良いのに。二百年前だったらだいぶ暇をしていたと思い出しながら頷く。
「その中でもガイアは街道にいるらしく、僕達はまずガイアに会おうと思っています」
「ガイア……」
名前を聞いて、少し考え込むと不意に大きな岩に顔が浮かび上がった映像が頭の中を過ぎる。それがなんだったのか分からず、驚いているとカブルーたちの視線が再びライオスに集まっていることに気づく。
慌てたライオスは両手をあげて「なんでもない!」と言うが、誰も信じていないようだ。当然だろう。偽名を使っている一文無しの冒険者だ。
ライオスは頬を掻きながら「えーっと……」と言葉に詰まる。
「ガイアって、岩に顔があったりするのかな」
「ガイアのことご存知なのですか?!」
カブルーが前のめりになってライオスに問う。ライオスはその勢いに驚きつつも「うぅん」と唸った。
「知っているというか……頭に浮かんできたというか……」
「頭に浮かんできた?」
「うん……信じてもらえないかもしれないけど」
これは知恵のドラゴンの特性なのだろうか。世界の番人として知るべき知識を携えているのかもしれない。だとしたら他の七賢人とやらも分かるのかも?
「他の七賢人の名前も教えてくれないか?」
机の上に乗り出して聞いてみると、カブルー以外のパーティは身を引いたが、カブルーだけはライオスの疑問に答える。
「詩人のポキール」
「……鳥みたいな人?」
「奈落の主オールボン」
「球根みたいな頭をしている? 背景は……真っ暗だ」
「海を渡る亀トート」
「歳を取った海亀……湖みたいなところにいる気がする」
「獣王ロシオッティ」
「格好いい獣が眠ってる姿……場所は森の中かな」
「ちょっと! 待ちなさいよ!」
ぽんぽんとやり取りするカブルーとライオスの間にリンシャが割り込んだ。
そして先刻よりも疑いを深めた眼差しでリンシャはライオスを見る。その眼差しには怯えも含まれている。
「七賢人のことを知らないのになんで名前が分かったら姿が思い浮かぶのよ!」
しかもだんだん場所が具体的になってきてる!
リンシャ以外のパーティメンバーも気味悪そうにライオスを見ていた。ライオスは調子に乗ってしまったことに、失態を犯したと気づく。
もしこれで己が知恵のドラゴンであることがバレでもすれば、元の森へと戻されてしまうかもしれない。それはいやだ。あの洞窟の前でただ一人、いつ終わるかも分からない役目のためにいるだけなんて。
せめてドラグーンを見つけてから、と考えていると、いよいよカブルーのパーティの中から不満が噴出し始める。
「やっぱり怪しいやつのために盗賊狩りなんてごめんだね」
「ミックが言うなら、クロも」
「私もちょっと……」
「僕も少し気が引くかなぁ」
どんどんライオスに対しての信頼が失われていく。それはそうだ、気味が悪くて当然だろう。本名を名乗らず、金も持っていない、七賢人を知らないと言うのに名前を上げられればどんな人物か分かるなんて訳の分からない人間を助けようだなんて誰も思わないはずだ。
「何を言ってるんだ、みんな! これだけ七賢人に詳しい人なんてそういない!」
しかし、カブルーは違ったようだ。嬉しそうにライオスの手を握る。
「それにセンシが悪人ではないことぐらい分かるだろう?」
何を以てして悪人ではないと言い切れるのかとライオスは思ったが、どうやら他のメンバーもライオスのことを怪しいとは思いつつも悪人とは思っていないらしい。何故だろうか。
疑問符を浮かべているライオスにお構いなしでカブルーはずいずいとくる。
「他には? 傀儡師アニュエラなどは?」
「アニュエラ……うーん、彼女の姿は見えないかな……」
アニュエラと聞いてもぼんやりとしか面影しか浮かばない。なんとなく、もう彼女はこの世にはいないのだろうという確信があった。
そう答えると、ライオスの手はさらに強く握られた。少し痛みを覚えるくらいだ。カブルーを見ると彼は瞳孔を開いてライオスのことを見ていた。なんとなく懐かしい気持ちになる。他国との会食の時などで様々な貴族などが来るときに、ライオスに重要人物を教えるときのカブルーによく似ていた。
「アニュエラはすでに亡くなっているという話です。あなたが本当に七賢人について詳しいことがよく分かりました。それなのに、七賢人が分からなかったふりをしていたわけでもないことも」
何か特別な力を持っているのかも、とどきりとするようなことを言い当てるカブルーに、ライオスは視線を逸らすことしかできない。
万が一でも自分が人間とは異なる存在であると知られてはまずいが、今でも嘘をつくのが苦手だ。
ライオスが視線を泳がせながら「どうかな……」と誤魔化してつつ、カブルーに手を離してもらえないかと少し手を引いてみるが、カブルーの力は強く抜け出せない。
他人の機微に聡い彼が、あからさまに手を離して欲しそうにしているのに手を離さないということは、何か理由がある時だ。
「センシ、あなたが良ければ僕たちのパーティに入りませんか?」
「え……?」
「何を言ってるのよ、カブルー!」
カブルーからのパーティの誘いに、リンシャから反対の声が上がる。他のパーティメンバーも困惑しているようだ。ライオスにとって、一時でもカブルーの傍にいられることは嬉しいが、だからと言って他のメンバーに迷惑をかけたり不快にしたいわけではない。
「申し出は嬉しいが、それで君が仲間からの信頼を失うことは望んでいない」
「その程度で失う信頼を築いてきたつもりはありません」
「いや、でも、話し合いはした方がいいんじゃないか?」
ちらちらと威嚇してくるミックベルなどを見ながらライオスが言うと、カブルーは「それもそうですね」とようやくライオスから手を離してくれた。
「みんなはどう思う?」
「だからさっき言ったじゃん! そんな怪しいやつと一緒なんてお断りだね!」
ミックベルが勢いよく立ち上がって言う。机の上に乗っていた食べ物などが揺れ動くが誰もそれに意義がないようで黙っている。
やっぱりそうなるよなぁとライオスが思っていると、カブルーが薄らと笑う。とても軽薄な笑みだった。
「センシには申し訳ないのですけど、俺はセンシが利用できると思っている」
ライオスの前で堂々と利用できると宣言するカブルーに、ライオス含めみんながギョッとした。それを本人の前で言ってしまうのかと驚いてしまう。
「七賢人がどこにいるか、俺たちは知らない。だけどセンシが入ってくれればそのヒントを手に入れることができる。なんでか分からないけど彼はどこに七賢人がいるか分かるらしいし、今までのように闇雲に探すよりも効率がいい」
「ちょっ、カブルー! いくらなんでもその言い方は――!」
流石にリンシャが止めるが、ライオスとしてはなるほどと頷いていた。打算目的で一緒にいようと言われる方が、今のライオスにとっては逆に安心材料にもなる。
知恵のドラゴンだとバレてマナストーンを奪われると言うのが一番あってはならないことだ。だから探知機だか道具扱いだかの方が安心できるというものだった。
カブルーの口からそう言われると少し悲しいけれど、今の関係性では仕方ない。前世の仲を覚えているから寂しくなってしまうが、前世のほぼ全てをライオスに捧げてくれたカブルーを、ドラゴンとして生まれたライオスの生に縛りつけようとは思わない。
ライオスはカブルーの提案に笑顔で頷いた。
「それなら俺は別に構わないよ。世界を見て回りたいと思っていたから、ちょうどいいし」
そう、ライオスはこの世界に生まれてからマナストーンのある洞窟と森しか知らない。だから外の世界を旅したかった。それが叶うなら、道具扱いだって構わない。何より、道具と言ってもカブルーたちなライオスに対して酷い扱いをしようなどとは微塵も思っていない。
軽く承諾したライオスに、今度はリンシャたちたから心配そうな視線が寄せられた。
そんな心配されるようなことなのかな、とライオスが頬を掻いていると、実際にライオスを道具扱いしようとしたカブルーにさえ本当にいいのかと言う目で見られてしまい、君が言い出したことだろうと思わず言いたくなった。
「さっきも言った通り、俺は世界を見て回りたいんだ。俺は、その――冒険者と言っても田舎から出てきたばかりで、世界のことには詳しくない。だから君たちが案内人になってくれると嬉しい」
どうかな。そうぎこちなく笑うと、カブルーもどこか安心した様子で、それならばと再度手を差し出してきた。
「パーティ結成ですね。センシ、よろしくお願いします」
「ああ、こちらこそよろしく頼む」
結局、他のパーティの意見を聞かなかったけれど、道具扱いを受け入れたライオスに同情的になったのか反対の声は上がらなかった。
そのまま、その日のうちに街道に行こうと言う話になったのだった。
街道に向かう道中、ライオスはあらゆる質問をされた。どこ出身なのかとか、なんでそんなに世間知らずなのかとか。
ライオスは自分の住んでいた森の方角に小さな村があり、排他的な村の空気に耐え変えねて飛び出したのだと嘘を吐いた。嘘を吐くのが苦手だったライオスも、こうして簡単な嘘を吐けるようになったのは前世でカブルーに教わったからだ。
嘘にはほんの少しの真実を交えて嘘を吐けばいい。それだけで人は信じてくれると。
ライオスは村はないが本当に自分が過ごしていた方角を教えたし、村を飛び出した理由は前世であったことを言っている。ライオスの吐いた嘘は一つだけ。カブルーもそれを信じたらしく、ライオスは自分が成長したなぁと感慨深く思った。
「それにしても、魔物が出なさすぎじゃない?」
ドワーフのダイアが不思議そうに呟いた。確かに、街道もしばらく歩いているのに一回も魔物に出くわさないのは珍しいのを超えてありえないことだとホルムが同意する。
「いるにはいるっぽいんだけどさー、なんか隠れてるみたいなんだよね」
それに対してミックベルが持ち前の感覚の鋭さで魔物の気配はすると断じた。けれど、何かに怯えているのか出てこないと言うことも。
ライオスは思わず体が跳ねるのを堪えた。やはり人間の姿になってもライオスが恐ろしいのか、それとも前世からの呪いか。魔物との縁がさっぱり切れてしまったライオスは、迂闊に「そうなのか?」と言い出しそうになるのを、必死に堪えた。
そんなことを言えば、自分が原因であることがバレてしまう。挙動不審にならないように気をつけ足を進める。こう言う時、前世の記憶があって良かったと思う。伊達に数十年の間、一国の王をしていたわけではない。少しくらい腹芸はできるようになっていた。
「いいじゃないか、魔物が出ない方が安全で。センシ、どの辺りで盗賊に襲われたか覚えてます?」
「えぇと……俺は反対側から来たから、もう少し先かな……」
冷や汗が出そうになるのを必死で堪えていると、分かれ道に出た。カブルーたちは当然ライオスが来たであろう道を行こうとしたが、それをライオスが止める。
反対の道の向こう側に、何か大きな気配を感じたからだ。
「待ってくれ。あっちに行こう」
「え……でもセンシが襲われたのはこっちの道、ですよね?」
「この向こうに何か……多分、君たちが求めているものがある……いや、いる気がする」
「それって……!」
カブルーの顔が輝く。だがすぐにそれを引き締め、首を振る。
「いや、今はセンシの荷物を取り戻すのが先だ。そっちの道は後にしよう」
正義感の強いカブルーらしい言葉だ。けれど、ライオスには困る言葉でもあった。
なんと言ってもライオスは盗賊に襲われていないのだから。盗賊とはいえ、無関係な人たちを巻き込むのは申し訳ない。
慌ててライオスはカブルーたちを止めに入る。
「俺の荷物は剣と少しの食料くらいだ。それよりも、この道は来た時にはなかった気がする。今だけしか現れていないのかもしれないし、後回しにしたら後悔してしまうかもしれない」
荷物の件も道のことも、今度は大嘘だらけだ。もしかしたら視線が泳いでいるかもしれないし挙動不審になっているかもしれない。実際に怪しいものを見るような視線でダイアやリンシャには見られている。反対にカブルーは真剣な表情で、何か考えているようだった。
そうして決断の時。
「分かった、センシの言った道の方に行ってみよう」
カブルーがそう言い、ライオスが促した方の道へと進むことになった。
他のメンバーはやれやれと肩をすくめてカブルーの後について行く。ライオスはと言うと、最後尾でホッとしていた。これで盗賊たちには迷惑はかからないだろう。
しばらく歩き続けていると――相変わらず魔物は現れなかった――、大きな岩山が道を塞いでいた。そこから先へは行けそうにない。
「ほら見ろ、何もないじゃないか! それにさっきの分かれ道だって昔からあったし、やっぱりそいつ怪しいやつだ! そんなやつパーティから追い出せよ!」
ミックベルが癇癪を起こしたように叫んだ。その通りすぎてライオスは耳が痛くなったが、それ以上に岩山が気になった。
なんの変哲もない岩山だけど、確かにそこに“いる”。
「あなたがガイアなのか……?」
ライオスは岩山に近づいていき、そっと声をかける。そんな姿を、不気味そうに見られていたことは分かっていたが、それでも言わずにはいられなかった。
するとどうだろうか、岩の凹凸が開き、目が現れた。横に入った裂け目が動き出し口になる。
「おや、珍しいお客様だ。どうしたんだい、子供達よ」
大きく、低く、よく響く声だった。ライオスはやっぱり、と納得していたが、他の面々はそれはそれは驚いたようで。
特にカブルーは目を見開いて口をあんぐりと開けていた。
「さぁ、子供達。もっと近くにおいで」
ライオスが地面が土から岩になっているところに立つと、カブルーや他のみんなも同じように岩の上に乗った。直後にごごご、と地響きが鳴って岩がせり上がり、ガイアの顔に近づく。
ライオスは呆然としているカブルーに視線をやり、「会いたかったんだろう?」と促した。
ハッとしたカブルーが、ようやく呆然とした顔から少し慌てたような顔になり、ガイアへと話しかける。
「あ、あの……俺……僕はどうしても昔から会いたい人がいて、でもそれが誰だかわからなくて……教えて欲しいんです。僕が誰に出会いたいのか」
会いたい人がいる。そう聞いて、ライオスの胸が苦しくなる。そうか、カブルーにはどうしても会いたい誰かがいるのか。
わからないと言うことは、きっと前世に由来する誰かなのだろう。昔のパーティメンバーにはもう出会えている。では誰に会いたいんだろう、とライオスは考えた。メリニの関係者だろうか。マルシル、ファリン、ヤアド、それとも――。
考え込んでいると、ガイアがなぜかライオスを見つめていた。
「君の求めている人はすぐ近くにいる。けれど、早く気がつかなければすぐに遠くへ行ってしまうよ」
「近く……?」
「私から言えるのはそれだけだよ。大事なことは自分で気づかなければいけない」
それだけ言うと、足場がどんどん低くなっていき、ガイアの顔が遠のいていく。
「待ってください! もっと、もっと教えてください!」
もっと教えてほしいと訴えかけるカブルー。しかし無情にもガイアはただの石山に戻ってしまった。
カブルーの両手がだらりと下ろされた。
「カブルー……」
リンシャがそっとカブルーを呼ぶと、カブルーの瞳に光が戻る。
「凄い、七賢人と出会えた……! 俺の会いたい相手は、近くにいるって!」
「か、カブルー?」
ホルムが不安げに名前を呼ぶ。カブルーはと言うと、ライオスに近づきがしりと手を掴んだ。
「センシ、あなたのおかげだ! 今まで街道を何度も来たのに、なんで気づかなかったんだろう? でもこれで光明が見えた、これからも一緒にお願いします!」
歓喜するカブルーに、ライオスは複雑な気持ちになりながら頷いた。頷くしかなかった。
カブルーが会いたい相手とは誰だろう。それだけがライオスの心に残っていた。畳む