2024/11/24 twst マレウス+カリム / 白妙の竜続きを読む全ての授業が終了した放課後。部活もなく、特にすることもないカリムは何かないかと学内を歩いていた。西日のさす廊下で、一対の角が目立つ長身の後ろ姿を見つけたカリムはその表情を輝かせた。「マレウス!」片手を上げ、その後ろ姿へ駆け寄る。名を呼ばれた生徒――マレウスはゆったりとした動作で振り返った。マレウスは駆け寄ってくるカリムの姿を見とめ、口元を緩めて歩んでいた足を止めた。「僕に何か用か、アジーム」マレウスのすぐそばまで駆け寄ったカリムは、嬉しそうな表情を崩さずにマレウスへと問いかける。「ああ、前から気になってたんだけど、マレウスってドラゴンになれるんだよな?」「僕はドラゴンの妖精だからな。当然、なれる」それがどうした? とマレウスは首を傾ぐ。カリムは頬を赤くして、さらに続けた。「じゃあさ、ドラゴンになったらどれくらい大きくなるんだっ?」「そうだな……ここの廊下の広さでは足りないだろう。――どうしたんだ、アジーム。ドラゴンに興味があるのか?」マレウスのドラゴンになった時の大きさを聞くと、カリムは凄いな! と興奮したように驚く。この広く高い天井廊下では足りないと言うと、どれだけの大きさになるのか。想像するだけでわくわくする。そんなカリムの様子に、今度はマレウスが問うた。こんなに己に興味を持たれることはそうそうない。どこか擽ったい気持ちになりつつ、マレウスはカリムのことを見下ろす。「ドラゴンって格好いいだろ? 本物は見たことないけど、実家の書庫にあった図鑑で見た時から一度で良いから本物を見てみたいって思ってたんだ」「……それは僕にドラゴンになってほしい、と?」「いや、流石にそんなことは頼めないだろ? ただ、どれくらいの大きさなんだろうって知りたかったんだ」「ドラゴンと言っても色々な種類があるから、一概には言えないが……そうか、本物が見てみたいか。それならアジーム、いっそお前がドラゴンになってみたらどうだ?」「オレが?」マレウスの提案に、カリムは驚く。目を瞠るカリムに、マレウスは鷹揚に頷いた。「僕の魔法で一時的にアジームをドラゴンの姿にしてやろう。ここでは狭いから、裏庭へ行こう」驚いたままのカリムを置いてけぼりに、マレウスは止めていた足を動かし出す。そんなマレウスの後を、カリムは慌てて追いかけるしかなかった。裏庭にやって来たマレウスとカリムは、早速とばかりに用意を始める。マレウスはペンを取り出すと、カリムに少し離れた場所に立つように指示した。指示された通りにカリムはマレウスから少し離れる。ドラゴンになる。そんな大掛かりな魔法をいとも簡単にやってしまおうと言うのだからマレウスは凄い、とカリムが思うと同時に、自分がドラゴンになったらどんな姿になるのか楽しみになる。もしもこの場をカリムかマレウスの従者に見つかったらすぐさま止められていただろうが、生憎ここにはストッパーが一人もいなかった。「いくぞ、アジーム」「ああ、いつでもいいぜ!」マレウスの持つペンから光が溢れると、それは瞬く間にカリムを包み込み、カリムは全身は光で覆われて影しか見えなくなる。やがて影は人の形を失い、人ならざるものへと姿を変える。人よりも二回りほど大きく、頭と思わしき場所には歪な角の影。光が消失した頃にはそこには元のカリムの姿はなく。真珠色に輝く長く美しい体毛に包まれたファードラゴンがいた。瞳は人の時と同じく鮮やかなガーネットレッドで、まるで宝石を思わせるような美しいドラゴンの姿に、魔法をかけたマレウスも思わずため息を吐く。カリムは己の変わりきった姿に驚き、瞳をぱちぱちと瞬かせると、その場をくるくると回り出した。『わっ、本当にドラゴンになっちまった! 凄いぞ、マレウス』「ああ、僕もこんなに美しいドラゴンを見るのは初めてだ。このまま茨の谷に連れて行ってしまいたいほどだ。きっと民たちも気にいるに違いない」『そうか? そう言われるとなんか照れるな』リリアが先ほどのマレウスの言葉を聞けば、本気で言っているのだろうとわかっただろうが、カリムはただの社交辞令と受け取った。大きな尻尾をぶんぶんと振り回し、四つ足でドラゴンの姿を堪能するカリム。そんなカリムにマレウスは近づき、そっとカリムの頬を撫でる。ファードラゴン特有の羽毛のような体毛が心地よく、マレウスは気分を良くして顔以外も撫でた。その手つきが気持ちいいのか、カリムは目を細めてマレウスの手を受け入れる。むしろもっとやってくれとばかりに大きな図体をマレウスに近づけた。二人にとって穏やかな時間が過ぎていたが、これだけ大きな魔法を使っていて誰にも見つからないはずがなく。ドタドタと慌ただしい足音が近づいてきた。「さっきの光は……っドラゴン?! それに、マレウス先輩……!?」「一体何が起きてるんですか!?」やって来たのはリドルとアズールだった。二人はドラゴンになったカリムの姿を見て目を見開き、次にマレウスの姿を確認すると、慌ててペンを取り出してカリムに向けた。ドラゴンがマレウスを襲おうとしているのだと勘違いしたのだろう。ピリリと肌を刺すような緊張感があたりを支配し、いざアズールとリドルが魔法を使おうとした瞬間、マレウスは腕を軽く振った。それだけで魔法の発動が止められて二人は驚く。「マレウス先輩! 何をするんですか!」「落ち着け。ローズハート、アーシェングロット。このドラゴンはアジームだ」「カリムさん!? そのドラゴンが?!」驚くアズールとリドルに、カリムはドラゴンの姿のままコクコクと頷く。そして今更ながら攻撃されそうになったのだと気がついて角の横にある犬のような耳をペタンと畳ませた。「カリム、何があってこんな姿になってしまったんだいっ」「アジームがドラゴンを見てみたいと言っていたからな、それならば本人がドラゴンになってみればいいと僕が言ったんだ」「それは……いや、その、どうやってカリムさんをドラゴンに……?」「僕の魔法に決まっているだろう」まるで当たり前のようにそう言ってのけるマレウスに、リドルとアズールは頭を抱える。人をドラゴンに変えるという魔法で一体どれだけの魔力が使われるのか。さすがは次期茨の谷の妖精王と言うべきか、スケールが違う。普通の魔法士がやろうものなら一発でオーバーブロットと起こしそうなことを簡単にやってのける。カリムは居心地悪そうに尻尾をぱたんぱたんと揺らしながら、視線をマレウスとリドルたちの間で行き来する。どうにもまずい事態になったと言うことは察したようだった。「これは……ジャミルに見つかる前にカリムを元の姿に戻さないと」「そうですね、こんなところをジャミルさんが見たら卒倒してしまうそうです」『この姿、結構気に入ってるんだけどなぁ。白くて綺麗で』鋭い爪を見下ろしながらカリムが呟くが、リドルとアズールは疑問符を浮かべたような表情をする。その事にカリムもどうしたのかと首を傾げた。「ああ、今のアジームの言葉はこの場では僕しか分からない。さすがに動物言語学でもドラゴンの言葉は教えていないだろう」『そうなのか?』「カリムさんはなんと仰っているんですか」「ああ、この姿を気に入っているらしい。僕もアジームのこの姿を気に入っている」「カリム……キミね……」「マレウスさんも冗談はやめてください……胃に穴が開く人がいますから」「冗談のつもりはなかったんだが」その方がタチが悪い! とはなんとか口に出さず、リドルとアズールは唇を噛んだ。二人がヤキモキしている間、カリムはマレウスの手に顔を押し付けてもっと撫でてほしいとアピールし、マレウスはそれに応えてカリムの頭や角まで撫でている。とにかく周りを気にしないカリムとマレウスに、リドルとアズールも毒気が抜かれた。慌ただしくやって来たのはなんだったのだろうかという気分にもなる。「とにかく先生達が来る前にカリムさんを元に戻した方が良いです。面倒なことになりそうですから」『うーん、それもそう……なのか? ごめんなマレウス、元に戻してくれるか?』「……残念だが、仕方ない」マレウスはペンを取り出すと、再び光を溢れさせ、その光がカリムを包み込む。光に包まれた影は次第に小さくなり、人の形になると消えていった。そこには人の姿に戻ったカリムがいた。カリムは自分の腕や脚を見回して、元に戻ったことをしっかりと確認するとマレウスに「ありがとな!」と感謝を告げる。「僕も楽しい経験ができた。次はアジームが茨の谷に来たときにやろう」「お? オレが茨の谷に? なんか知らないけどわかったぜ!」「カリム、適当に返事をするもんじゃないよ」「そうですよ、妖精を相手に適当な約束なんてするものではないです」「そうなのか?」そうやってマレウスを見上げるカリムに、マレウスはただ意味深に笑うだけで何も答えない。カリムも笑って返すが、リドルとアズールは笑えなかった。もしカリムが茨の谷に行ってドラゴンに変身したら、一生そのままになってしまうのではないかと不安を覚えるのだった。畳む
全ての授業が終了した放課後。部活もなく、特にすることもないカリムは何かないかと学内を歩いていた。西日のさす廊下で、一対の角が目立つ長身の後ろ姿を見つけたカリムはその表情を輝かせた。
「マレウス!」
片手を上げ、その後ろ姿へ駆け寄る。名を呼ばれた生徒――マレウスはゆったりとした動作で振り返った。マレウスは駆け寄ってくるカリムの姿を見とめ、口元を緩めて歩んでいた足を止めた。
「僕に何か用か、アジーム」
マレウスのすぐそばまで駆け寄ったカリムは、嬉しそうな表情を崩さずにマレウスへと問いかける。
「ああ、前から気になってたんだけど、マレウスってドラゴンになれるんだよな?」
「僕はドラゴンの妖精だからな。当然、なれる」
それがどうした? とマレウスは首を傾ぐ。カリムは頬を赤くして、さらに続けた。
「じゃあさ、ドラゴンになったらどれくらい大きくなるんだっ?」
「そうだな……ここの廊下の広さでは足りないだろう。――どうしたんだ、アジーム。ドラゴンに興味があるのか?」
マレウスのドラゴンになった時の大きさを聞くと、カリムは凄いな! と興奮したように驚く。この広く高い天井廊下では足りないと言うと、どれだけの大きさになるのか。想像するだけでわくわくする。
そんなカリムの様子に、今度はマレウスが問うた。こんなに己に興味を持たれることはそうそうない。どこか擽ったい気持ちになりつつ、マレウスはカリムのことを見下ろす。
「ドラゴンって格好いいだろ? 本物は見たことないけど、実家の書庫にあった図鑑で見た時から一度で良いから本物を見てみたいって思ってたんだ」
「……それは僕にドラゴンになってほしい、と?」
「いや、流石にそんなことは頼めないだろ? ただ、どれくらいの大きさなんだろうって知りたかったんだ」
「ドラゴンと言っても色々な種類があるから、一概には言えないが……そうか、本物が見てみたいか。それならアジーム、いっそお前がドラゴンになってみたらどうだ?」
「オレが?」
マレウスの提案に、カリムは驚く。目を瞠るカリムに、マレウスは鷹揚に頷いた。
「僕の魔法で一時的にアジームをドラゴンの姿にしてやろう。ここでは狭いから、裏庭へ行こう」
驚いたままのカリムを置いてけぼりに、マレウスは止めていた足を動かし出す。そんなマレウスの後を、カリムは慌てて追いかけるしかなかった。
裏庭にやって来たマレウスとカリムは、早速とばかりに用意を始める。マレウスはペンを取り出すと、カリムに少し離れた場所に立つように指示した。
指示された通りにカリムはマレウスから少し離れる。ドラゴンになる。そんな大掛かりな魔法をいとも簡単にやってしまおうと言うのだからマレウスは凄い、とカリムが思うと同時に、自分がドラゴンになったらどんな姿になるのか楽しみになる。
もしもこの場をカリムかマレウスの従者に見つかったらすぐさま止められていただろうが、生憎ここにはストッパーが一人もいなかった。
「いくぞ、アジーム」
「ああ、いつでもいいぜ!」
マレウスの持つペンから光が溢れると、それは瞬く間にカリムを包み込み、カリムは全身は光で覆われて影しか見えなくなる。やがて影は人の形を失い、人ならざるものへと姿を変える。
人よりも二回りほど大きく、頭と思わしき場所には歪な角の影。光が消失した頃にはそこには元のカリムの姿はなく。真珠色に輝く長く美しい体毛に包まれたファードラゴンがいた。瞳は人の時と同じく鮮やかなガーネットレッドで、まるで宝石を思わせるような美しいドラゴンの姿に、魔法をかけたマレウスも思わずため息を吐く。
カリムは己の変わりきった姿に驚き、瞳をぱちぱちと瞬かせると、その場をくるくると回り出した。
『わっ、本当にドラゴンになっちまった! 凄いぞ、マレウス』
「ああ、僕もこんなに美しいドラゴンを見るのは初めてだ。このまま茨の谷に連れて行ってしまいたいほどだ。きっと民たちも気にいるに違いない」
『そうか? そう言われるとなんか照れるな』
リリアが先ほどのマレウスの言葉を聞けば、本気で言っているのだろうとわかっただろうが、カリムはただの社交辞令と受け取った。
大きな尻尾をぶんぶんと振り回し、四つ足でドラゴンの姿を堪能するカリム。そんなカリムにマレウスは近づき、そっとカリムの頬を撫でる。ファードラゴン特有の羽毛のような体毛が心地よく、マレウスは気分を良くして顔以外も撫でた。その手つきが気持ちいいのか、カリムは目を細めてマレウスの手を受け入れる。むしろもっとやってくれとばかりに大きな図体をマレウスに近づけた。
二人にとって穏やかな時間が過ぎていたが、これだけ大きな魔法を使っていて誰にも見つからないはずがなく。ドタドタと慌ただしい足音が近づいてきた。
「さっきの光は……っドラゴン?! それに、マレウス先輩……!?」
「一体何が起きてるんですか!?」
やって来たのはリドルとアズールだった。二人はドラゴンになったカリムの姿を見て目を見開き、次にマレウスの姿を確認すると、慌ててペンを取り出してカリムに向けた。ドラゴンがマレウスを襲おうとしているのだと勘違いしたのだろう。
ピリリと肌を刺すような緊張感があたりを支配し、いざアズールとリドルが魔法を使おうとした瞬間、マレウスは腕を軽く振った。それだけで魔法の発動が止められて二人は驚く。
「マレウス先輩! 何をするんですか!」
「落ち着け。ローズハート、アーシェングロット。このドラゴンはアジームだ」
「カリムさん!? そのドラゴンが?!」
驚くアズールとリドルに、カリムはドラゴンの姿のままコクコクと頷く。そして今更ながら攻撃されそうになったのだと気がついて角の横にある犬のような耳をペタンと畳ませた。
「カリム、何があってこんな姿になってしまったんだいっ」
「アジームがドラゴンを見てみたいと言っていたからな、それならば本人がドラゴンになってみればいいと僕が言ったんだ」
「それは……いや、その、どうやってカリムさんをドラゴンに……?」
「僕の魔法に決まっているだろう」
まるで当たり前のようにそう言ってのけるマレウスに、リドルとアズールは頭を抱える。人をドラゴンに変えるという魔法で一体どれだけの魔力が使われるのか。さすがは次期茨の谷の妖精王と言うべきか、スケールが違う。普通の魔法士がやろうものなら一発でオーバーブロットと起こしそうなことを簡単にやってのける。
カリムは居心地悪そうに尻尾をぱたんぱたんと揺らしながら、視線をマレウスとリドルたちの間で行き来する。どうにもまずい事態になったと言うことは察したようだった。
「これは……ジャミルに見つかる前にカリムを元の姿に戻さないと」
「そうですね、こんなところをジャミルさんが見たら卒倒してしまうそうです」
『この姿、結構気に入ってるんだけどなぁ。白くて綺麗で』
鋭い爪を見下ろしながらカリムが呟くが、リドルとアズールは疑問符を浮かべたような表情をする。その事にカリムもどうしたのかと首を傾げた。
「ああ、今のアジームの言葉はこの場では僕しか分からない。さすがに動物言語学でもドラゴンの言葉は教えていないだろう」
『そうなのか?』
「カリムさんはなんと仰っているんですか」
「ああ、この姿を気に入っているらしい。僕もアジームのこの姿を気に入っている」
「カリム……キミね……」
「マレウスさんも冗談はやめてください……胃に穴が開く人がいますから」
「冗談のつもりはなかったんだが」
その方がタチが悪い! とはなんとか口に出さず、リドルとアズールは唇を噛んだ。
二人がヤキモキしている間、カリムはマレウスの手に顔を押し付けてもっと撫でてほしいとアピールし、マレウスはそれに応えてカリムの頭や角まで撫でている。
とにかく周りを気にしないカリムとマレウスに、リドルとアズールも毒気が抜かれた。慌ただしくやって来たのはなんだったのだろうかという気分にもなる。
「とにかく先生達が来る前にカリムさんを元に戻した方が良いです。面倒なことになりそうですから」
『うーん、それもそう……なのか? ごめんなマレウス、元に戻してくれるか?』
「……残念だが、仕方ない」
マレウスはペンを取り出すと、再び光を溢れさせ、その光がカリムを包み込む。光に包まれた影は次第に小さくなり、人の形になると消えていった。そこには人の姿に戻ったカリムがいた。
カリムは自分の腕や脚を見回して、元に戻ったことをしっかりと確認するとマレウスに「ありがとな!」と感謝を告げる。
「僕も楽しい経験ができた。次はアジームが茨の谷に来たときにやろう」
「お? オレが茨の谷に? なんか知らないけどわかったぜ!」
「カリム、適当に返事をするもんじゃないよ」
「そうですよ、妖精を相手に適当な約束なんてするものではないです」
「そうなのか?」
そうやってマレウスを見上げるカリムに、マレウスはただ意味深に笑うだけで何も答えない。
カリムも笑って返すが、リドルとアズールは笑えなかった。
もしカリムが茨の谷に行ってドラゴンに変身したら、一生そのままになってしまうのではないかと不安を覚えるのだった。畳む